コラム

中国経済のV字回復は始まっている

2020年04月19日(日)18時58分

コロナ禍は中国および全世界にとって大きな災難であった。ただ、中国にとってはケガの功名もあった。それは統計が真実性を大幅に回復したことである。感染が拡大する間、国家衛生健康委員会のウェブサイトではその日の午前0時までの感染状況が昼前には公表されるというスピードで発表され続けた。国民はそれを見て前半は恐るべき感染爆発を知り、後半は対策が功を奏していることを知り、長く続いた外出制限に耐えた。淡々と統計を作って発表することがいかに大きな力となるかを私も実感させられた。

国家統計局もそれを見て思うところがあったのではないだろうか。4月17日の発表は中国政府が史上初めてリアルタイムでマイナス成長を認めたという意味では画期的だった。これまでも1989~90年や1998年などマイナス成長が疑われる年があったが、国家統計局が発表する成長率は常にプラスだった。さらに、2015年以降は成長率の動きがきわめて硬直的になり、景気動向を見るうえでの機能を喪失してしまった。GDPや鉱工業成長率と、国家統計局が発表する工業製品の生産量などとの整合性もなくなった。

しかし、今回ばかりは国家統計局もさすがに観念したようである。マイナス成長が発表されると同時に、さまざまな統計指標の間の整合性も回復し、中国経済に何が起きているのかというストーリーが読み取れるようになった。もちろん中国の統計の弱点がこれで克服されるわけもなく、その意味では引き続き注意深く統計を見ていく必要があるものの、今回は国家統計局の数字を信頼しても大過ないと思っている。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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