コラム

消費税ポイント還元の公式アプリが「使えない」理由

2019年10月16日(水)21時14分

さらに、ポイント還元があるお店を地図上にただ表示するだけで検索機能がないため、たとえば「これから食事に行くけど、この辺でポイント還元がある店はないか」と思ってもこのアプリでは探すことは困難である。

私の家の近所について調べてみたところ、地図上の場所が大きくずれているようなことはなかったが、同じ店を示すピンが何本も立っているケースが多かった。下の写真はCoCo壱番屋荻窪駅南口店を表示しているが、同じ荻窪駅南口店を示すピンが3本も刺さっているのがお分かりいただけるだろうか。同じ店を示すピンが2、3本刺さっている例はざらにある。

photoc.PNG

それぞれのピンをタッチして何が書いてあるのかを見てみると、店舗名が微妙に違ったり(「CoCo壱番屋」と「カレーハウスcoco壱番屋」)、利用できるキャッシュレス手段が微妙に違っていたりする。

駆け込み申請に対応できず

このキャッシュレス支払いに対するポイント還元制度は、中小企業からの申請によって実施されるもので、今年9月の申し込み期限の直前に駆け込みで申請が殺到した。消費税引き上げと還元制度が始まる10月1日まで日数が切迫しているなかであわててお店の情報を入力したため、本来は同一の店なのに微妙に異なる複数の名称で登録されていたり、キャッシュレス支払いの手段が増えるたびに入力し直した結果、あたかも複数の店であるかのように登録されてしまったのだろうと想像する。

それをそのまま地図ソフトの上に表示した結果、同一の店なのにまるで3つの店であるかのように3つピンが立ってしまった。しかし、本来一番伝えなければならない「どのキャッシュレス決済の手段が利用可能か」という情報について複数のピンの間で相矛盾する情報が掲載されているのでは、このアプリは使い物にはならないといわざるを得ない。

こんなことが起きるのは、データ入力は一生懸命にやったが、データ整理の作業を怠っていたことを示している。私もアンケート調査のデータなどを分析することがあるが、集計や分析の前に、まず入力ミスがないかどうか「データのクリーニング」という作業を必ずやっておく必要がある。これはデータの数が多くなるとものすごく大変な作業である。今回のポイント還元制度に参加するお店の数は10月11日時点で52万店ということだから、そのデータをクリーニングする作業はさぞかし手間であろう。クリーニングをする時間もないまま還元制度が始まる日が迫ってしまい、不備を抱えたままアプリの公開に踏み切ったのであろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

11月鉱工業生産速報は前月比 -2.6%=経産省(

ビジネス

完全失業率11月は2.6%、有効求人倍率は1.18

ワールド

シリア、来年から新紙幣交換開始 物価高助長との懸念

ワールド

米、ナイジェリア北西部でイスラム過激派空爆 トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story