コラム

アメリカの鉄鋼・アルミ輸入制限に日本はどう対処すべきか

2018年04月05日(木)13時20分

こうした状況に日本はどう対処したらよいだろうか。

今回の事態に対する日本政府のこれまでの対応は残念なものであった。日本にとって世界の自由貿易体制の維持は死活問題であり、貿易戦争を引き起こす可能性の高い232条をアメリカが発動することには、たとえ日本が対象から外れていたとしても断固として反対すべきであった。

ところが日本政府は小声で「遺憾」と言っただけで、あとはひたすら日本を除外してくれとアメリカに懇願しつづけた。日本は世界の自由貿易体制の擁護よりも対米追従と自己利益を重視する国だという印象を世界に与えてしまった。

アメリカへの懇願も空しく日本が除外されなかったいま、日本は引き続き除外を求めるのではなく、鉄鋼・アルミの輸入制限の一切を中止するようアメリカに要求するべきである。さらに、日本も中国のようにアメリカに対して報復を行うべきである。

現状ではアメリカが日本に対して一方的にハードルを一段上げた状況にある。誠意をもってお願いしたらこのハードルをアメリカが下げてくれるというのは甘い考えで、トランプ政権は日本から何かの見返りを獲得しない限りハードルを下げないだろう。

トランプが仕掛けたゲーム

アメリカ産農産物に対する関税引き下げや数量制限の撤廃、さらにはアメリカ製品の購入といった要求が来ることを覚悟しないとならない。

ただ幸いにもアメリカによるハードル引き上げはWTOの掟破りのものなので、日本も掟破りの報復をすることが可能である。そうしてハードルを日本の側でも上げておけば、交渉によってお互いにハードルを下げるという落としどころができることになり、アメリカの無体な要求をかわすのに役立つ。

報復の内容としては、ワイン、紙巻たばこ、お菓子など、アメリカ以外の輸出国が多いうえに日本国内でも生産でき、代替が可能なような嗜好品に対する関税を引き上げるのがよい。嗜好品だからアメリカ産が好きな人は高くなっても買うだろうし、そうでもない人は他国からの輸入品や国内生産品に切り替える。小売価格が上がっても国民生活に対する影響は小さいと考えられる。

アメリカをさらなる報復に駆り立てるほど激怒させたら大変だが、鉄鋼・アルミへの課税をあきらめさせるぐらいには深刻な打撃になるようにサジ加減する必要がある。

これはいじめっ子(bully)トランプが仕掛けてきたゲームなのだ。懇願と笑顔ばかりではトランプもかえって面白くないだろう。日本もトランプのゲームに付き合ってあげようではないか。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米海兵隊、在カラチ領事館でイラン攻撃に抗議するデモ

ビジネス

アングル:ドバイなど中東ハブ空港、紛争拡大で「視界

ワールド

米CDC所長代理、はしかワクチン接種呼びかけ

ワールド

AWS、UAEとバーレーンのデータセンターが無人機
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 5
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 8
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 7
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story