コラム

アメリカの鉄鋼・アルミ輸入制限に日本はどう対処すべきか

2018年04月05日(木)13時20分

さて、日本政府は、日米は同盟関係にある以上、日本からの鉄鋼・アルミ輸入はアメリカの安全保障に影響を及ぼさないはずだから、輸入制限から除外してほしいとアメリカに要望した。ところが3月23日にいざ輸入制限が実施されてみたら日本は除外されていなかった。

表ではアメリカの2017年の鉄鋼の輸入先の上位13カ国を示しているが、黄色くハイライトしたのが輸入制限から除外された国々である。

marukawachart.jpg

カナダとメキシコが除外されることは十分に予想できた。アメリカとカナダ、メキシコは長い国境線を接しているし、鉄鋼は輸送コストがかさむので、例えばシアトル(アメリカ)で生産した鋼材は近くのバンクーバー(カナダ)に運び、オタワ(カナダ)で生産した鋼材はボストン(アメリカ)に持っていくといったことがありうる。実際、アメリカのカナダからの鉄鋼輸入と、アメリカのカナダに対する鉄鋼輸出とはほぼ拮抗している。

またアメリカからメキシコへの鉄鋼輸出はメキシコからの鉄鋼輸入の2倍以上ある。カナダとメキシコからの鉄鋼輸入を制限し、カナダとメキシコに報復されたらかえってアメリカの鉄鋼業を苦しめることになる。

他方で、輸入制限の対象からアメリカの同盟国を除外していったらロシア、中国、ベトナムぐらいしか課税する相手がいなくなってしまう。これでは輸入制限の目的を達せられない。

輸入制限発動の根拠となったアメリカ商務省のレポート「鉄鋼輸入が国家の安全保障に与える影響」によれば、輸入の打撃によって国内の鉄鋼業が衰退したら、兵器の材料となる鋼材の供給もできなくなるので、鉄鋼業の設備稼働率を80%以上に引き上げるべきだという。

韓国は除外されたのに、日本は除外されなかった

2017年に72.3%に落ちた設備稼働率を80%に引き上げるために、商務省のレポートは以下の3つのオプションを示している。①輸入を37%カットするように輸入の数量制限を実施する、②すべての鉄鋼輸入に24%の関税を課する、③ブラジル、韓国、ロシア、トルコ、インド、ベトナム、中国、タイ、南アフリカ、エジプト、マレーシア、コスタリカからの鉄鋼輸入には53%の関税、他の国は2017年並みの輸入にとどめる。

鉄鋼輸入の総量を37%減らすというこのレポートの示す目標を実現するのはかなり大変だ。もしカナダとメキシコを除外したら、残りの国にはかなり高率の関税、または厳しい輸入数量制限を課さないとならないだろう。だから、私は日本はまず除外されないだろうと思った。

ただ、安全保障を根拠とする輸入制限なので、安全保障の面ではアメリカと等距離にあると思われる日本と韓国が異なった扱いをされるとは思わなかった。なので、韓国が除外され、日本は除外されないという今回の決定はやはり意外だった。

アメリカがいかなる考えでカナダ、メキシコ、ブラジル、韓国、EU、アルゼンチン、オーストラリアの7カ国・地域を除外し、そのほかは除外しなかったのか理解するのは難しい。表では、米軍が駐留している国、アメリカとFTAを結んでいる国を示したが、この2要素では除外・適用の理由を説明できない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ノーベル化学賞に北川進・京都大学特別教授ら3人

ワールド

欧州の金利「適切な水準」、追加のガイダンス不要=ス

ビジネス

アサヒGHDへのサイバー攻撃、ランサムウエア集団「

ワールド

中国、台湾総統を激しく非難 「身を売って外国勢力と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示す新たなグレーゾーン戦略
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女性を襲った「まさかの事件」に警察官たちも爆笑
  • 4
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 7
    ヒゲワシの巣で「貴重なお宝」を次々発見...700年前…
  • 8
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 9
    「それって、死体?...」新婚旅行中の男性のビデオに…
  • 10
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 5
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story