コラム

オーダーメイドのスーツを手頃な価格で――「マス・カスタマイゼーション」で伸びる中国のアパレルメーカー

2016年12月15日(木)16時46分

新産業革命の1つの事例「採寸は受注生産、生産は大量生産」? shironosov-iStock.

<ドイツが提唱する産業革命「インダストリー4.0」。どちらかというと冷めている日本企業と違い、貪欲に学ぼうとしてきた中国企業の成功例の1つを見た。日本ももっとやってみればいいのに>

 2016年4月にドイツの工業見本市ハノーファー・メッセに行って痛感したのは、中国の企業や地方政府がドイツ発の新産業革命「インダストリー4.0」をなんとかビジネスチャンスにつなげようと貪欲なのに対し、日本企業は数社の例外を除いて冷淡だということでした

 2015年には、日本は官民挙げてドイツへ「インダストリー4.0」の視察団を繰り出したものの、16年になると日本企業の間で「どうやら大したことなさそうだ」という空気が広がりました。「インダストリー4.0」が目指す工場の将来像なんて「日本の工場ではずっと前から実行しています」という中沢孝夫氏の発言(中沢孝夫・藤本隆宏・新宅純二郎『ものづくりの反撃』ちくま新書)がそうした空気を象徴しています。

 たしかに、「インダストリー4.0」のキーワードの一つである「マス・カスタマイゼーション」は、日本の自動車メーカーではとうに実践しています。日本で乗用車を買った経験がある人ならわかるように、買う際に車種だけでなく、ボディーの色、カーナビの種類、シート・カバーの種類など細かいスペックを自分で選ぶことができ、3週間ぐらいしたらその通りに作られた車が届きます。自動車の工場を視察すればわかるように、生産ラインのなかで、1台1台スペックの異なる車が効率的に組み立てられています。つまり、日本の自動車工場では大量生産(マス・プロダクション)と個々の買い手が指定したスペックに基づくカスタマイゼーションが両立しているのです。

もっと広がるマス・カスタマイゼーション

 しかし、自動車以外の消費財でマス・カスタマイゼーションというアイディアに触発される日本企業がもっと出てきてもいいのではないか。中国の意外なところで「マス・カスタマイゼーション」を実践している企業に出会って、そう思いました。それは報喜鳥集団という紳士服メーカーです。

 紳士服は、大昔には仕立て屋さん(テーラー)で体の寸法を測ってもらって作るものだったようですが、今では既製服が主流になりました。つまり、カスタム生産から大量生産に移行しました。私自身もこれまで既製服以外には買ったことがなく、仕立て屋さんで服を作ってもらったらきっと高価なのだろうなと思って敬遠してきました。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マレーシア、16歳未満のSNS禁止を計画 来年から

ワールド

米政府効率化省「もう存在せず」と政権当局者、任期8

ビジネス

JPモルガンなど顧客データ流出の恐れ、IT企業サイ

ワールド

米地裁、政権による都市や郡への数億ドルの補助金停止
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story