コラム

「トランプ大統領」の復活で「狂気の米国」が出現する...ネオリベラリズムが生んだディストピアのアメリカ

2024年01月17日(水)07時56分

ニューヨーク・タイムズ紙は「トランプ氏は4つの重罪で起訴され、史上唯一、刑事責任を問われた元米大統領であるにもかかわらず、『選挙妨害』と民主党と『ディープステート(米連邦政府・金融機関・産業界の関係者が地下ネットワークを構築しているというデタラメ)』の手による被害者だという彼の主張の下で多くの共和党員が結束している」と解説する。

中国共産党系「人民日報」傘下の「環球時報」英語版(15日付)は党員集会に先立ち「世界は『さらなる不確実性』に備える必要がある」と警戒を強める。「バイデン氏の仕事ぶりに対する支持率は過去15年の米大統領の中で最低を更新した。世界はトランプ氏が大統領に再選され、米国がより分裂する可能性に備えるべきだ」と説く。

「ディープステートを解体せよ」

「ロシア・ウクライナ紛争とパレスチナ・イスラエル紛争という2つの長期化する戦争に米国が巻き込まれ、アジア太平洋の緊張も高まっていることから、24年の米大統領選は世界的な注目を集めている。専門家たちは米大統領選が、すでに激動する世界情勢にさらなる不確実性をもたらすことを懸念している」(環球時報)

米AP通信のまとめによると、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合の政権公約にはディープステートの解体、大規模な国内不法移民の強制送還作戦、新たなイスラム教徒の入国禁止令、すべての輸入品に関税をかけ、米国内に「自由都市」を建設することが含まれている。もし実現すればトランプ氏の計画は1期目よりも劇的になると予測する。

「スケジュールF」として知られる20年大統領令を再発行することでディープステートの解体を目指し、大量のキャリア官僚を解雇する恐れがある。「司法制度を武器化した腐敗官僚」と「国家安全保障と情報機関の腐敗行為者」が狙われる。トランプ氏は自分を追及するFBI(連邦捜査局)や連邦検察官に復讐するだろう。記者に情報をリークする官僚も取り締まる。

現在4000人のキャリア官僚の政治任用を5万人に増やす「スケジュールF」はトランプ氏だけでなく、恐ろしいことに共和党員の間で広く受け入れられている。米シンクタンク、ブルッキングス研究所の調査ではキャリア官僚の政治任用が拡大して人事が政治化すれば、行政能力、政府のパフォーマンス、国民や議会に対する説明責任は低下する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:米レポ市場、年末の資金調達不安が後退 F

ワールド

米、台湾への武器売却承認 ハイマースなど過去最大の

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story