コラム

「トランプ大統領」の復活で「狂気の米国」が出現する...ネオリベラリズムが生んだディストピアのアメリカ

2024年01月17日(水)07時56分

「狂気のドラマ」と化した大統領選

AP通信によると、トランプ氏は移民税関捜査局に史上最大規模の強制送還作戦を実施するよう指示する計画だ。メキシコ国境の安全を確保するため、海外に駐留する数千人の軍隊を移動させ、麻薬取締局やFBIの連邦捜査官を不法移民の取り締まりにシフトさせる。思想審査で聖戦主義にシンパシーを抱く人や反米・反ユダヤ主義的な人をあぶり出す。

トランプ氏はまた、ほとんどの外国製品に10%の関税をかける考えだ。電子機器、鉄鋼、医薬品を含め、中国からの輸入を段階的に削減する4カ年計画も提案している。出生時に決定される「2つの性別のみ」を認める法案を議会に提出する。パリ協定から再び離脱、石油・ガス・石炭の生産者に税制優遇措置を提供し、電気自動車への優遇措置を撤廃する計画だ。

トランプ人気が衰えないのは、バイデン政権のような伝統的な政治体制に挑むアウトサイダーとして自分を演出しているからだ。政治家、メディア、専門家を含むエリート層に対する挑戦者として自らを定義する。そのパフォーマンスが政治の主流から権利を奪われた、あるいは無視されたと感じている有権者の共感を呼んでいるのだ。

米国の政治情勢は極端に二極化している。トランプ氏のコアな支持者たちはトランプ氏を自分たちの価値観や懸念の擁護者とみなし、熱狂的な忠誠心を示している。ネオリベラリズム(新自由主義)は世界金融危機とその後の金融緩和で貧富の格差を極限化して破綻し、健全な中間層に支えられてきた民主主義も崩壊の危機に瀕している。

世界中が注目する米大統領選という究極のリアリティーショーは狂気のドラマと化した。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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