コラム

世論調査に振り回される「孤独な独裁者」プーチン...戦争を終わらせないことで延命か

2023年01月28日(土)17時39分

棒が垂直にそびえ立ったような極端な独裁体制を確立したプーチン氏だが、「世論調査や国民感情の評価がロシアの政治的意思決定の主要部分を占めている」と英シンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャック・ワトリング上級研究員は指摘する。ワトリング氏はロシア連邦保安庁(FSB)が実施した世論調査などの機密情報を入手し、分析してきた。

そもそもウクライナ侵攻に踏み切ったのも世論調査の結果が一因をなしていたとワトリング氏はみる。なぜプーチン氏とその取り巻きたちがいとも簡単にウクライナを占領できると思い込んでしまったのか。侵攻直前の昨年2月、旧ソ連諸国での情報活動を担当するFSB第5局が裏で糸を引く形で、ウクライナ各地で世論調査が行われた。

世論調査で大別されるロシア国民の5グループ

それによると、ウクライナ人は将来に悲観的、政治に無関心であり、政治家や政党、国家機関の大部分を信頼していなかった。67%がウォロディミル・ゼレンスキー大統領に不信感を抱いており、外国の侵略に抵抗するかどうかについては40%が「ウクライナを守らない」と答えていた。地域別に見ると、東部と南部ではウクライナ国家への信頼度がかなり低かった。

生活に困窮する東部と南部の住民の多くは占領当局がサービスを提供してくれるなら、進んで受け入れる用意があることを示唆していた。こうした調査結果を鵜呑みにしたプーチン氏とその取り巻きたちが、キーウのゼレンスキー政権さえ追い落とせば、東部や南部は簡単に支配できると過信した様子が浮かび上がってくる。

ワトリング氏はRUSIのホームページに掲載された論評の中で「世論調査はロシア人を5グループに大別する傾向がある。コスモポリタン、ニヒリスト、ロイヤリスト、グローバリスト(外向き)愛国者、万歳(内向き)愛国者だ。コスモポリタンは人口の12〜15%を占め、積極的な反対派の中核を形成するとみられている」と指摘する。

コスモポリタンの半数弱はウクライナと個人的なつながりがあると評価されている。人口の10%強を占めるニヒリストは政府に批判的だが、無関心で、受動的とみられている。残りのグループは程度の差こそあれ、いずれも政府を支持すると考えられている。しかし人口の20〜25%の万歳愛国者は戦争に深く関わっているため、失敗には厳しく反応する可能性がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story