コラム

「何百万人に憎まれている」 ロシア国民と中国は、なぜゴルバチョフが嫌いなのか

2022年09月01日(木)20時27分

ソ連崩壊を教訓に中国共産党支配を強化する習近平氏

2013年、中国の指導者になって間もない習近平国家主席は中国共産党幹部に「政治腐敗とイデオロギーの混乱、軍の不忠が崩壊の原因となったソ連の深い教訓に耳を傾けなければならない」と呼びかけた。習氏は「崩壊の理由はソ連の理想と信念が揺らいだからだ。ゴルバチョフ氏の一言で、ソ連共産党は解散を宣言し、消滅した」と語った。

米外交雑誌フォーリン・ポリシーのジェームズ・パーマー副編集長は2016年当時、「ソ連崩壊から25年、中国共産党はこの問題に関して何万もの内部文書、座談会、さらにはドキュメンタリー映画を生み出してきた。しかしゴルバチョフ氏が失脚する前、多くの中国人はゴルバチョフ氏を好意的に受け止めていた」と記している。

ゴルバチョフ氏のペレストロイカより随分早い1978年に鄧小平氏の「改革開放」は始まっている。しかし「中国共産党重慶市委員会書記だった薄熙来氏がクーデターを計画(2012年に失脚)していると中国共産党指導部が考えた。それが習氏登場につながった」と香港最後の総督を務めたクリストファー・パッテン英オックスフォード大学名誉総長は指摘する。

習氏によって中国の「改革開放」路線は180度転換された。自由や民主主義、人権など普遍的価値、市民社会、市場原理を重視する新自由主義、報道の自由という西側の価値はすべて否定された。中国共産党にとって、西側を受け入れるゴルバチョフ氏のような改革派は決して受け入れられないのだ。

それが中国の孤立と衰退を意味するのか、中国共産党支配をより強固なものにするのかは、西側とウクライナが結束してプーチン氏に明確な敗北を突き付けることができるかにかかっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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