コラム

英変異株の感染力を50%上回るインド変異株の脅威 英の正常化に遅れも ワクチン遅い東京五輪に赤信号

2021年05月15日(土)21時00分
コロナ犠牲者を追悼するハート(ロンドン)

コロナ犠牲者を悼むためテムズ川沿いのセント・トーマス病院の壁に描かれたハート(筆者撮影)

[ロンドン発]大規模なワクチン展開で1日当たりの新たな死者が一桁に落ちたイギリスのボリス・ジョンソン首相は14日、インドで発見された感染力が非常に強いインド変異株(B.1.617.2)が英イングランド北部ボルトン、北西部ダーウェン、ブラックバーンで拡大しているとして正常化のロードマップを遅らせる可能性に言及した。

インド変異株がワクチンの効果を弱める証拠がないため、ジョンソン首相は英予防接種合同委員会の助言に従い50歳以上への2回目の接種を加速し、インド変異株の感染が広がる地域では2度の接種期間を12週間から8週間に短縮する方針を打ち出した。17日からロードマップのステップ3として飲食店の屋内営業や大型イベントを再開するものの、来月21日の正常化には黄信号が灯る。

英内閣府ブリーフィングルームA(COBRA)で行われる緊急事態対策委員会に科学的助言を行う緊急時科学的助言グループ(SAGE)は今月13日に開催された会合の詳報を翌14日、異例のスピードで公開した。バース大学のキット・イエーツ上級講師(数理生物学者)は「科学者は正常化の日程について私たちに何かを伝えようとしている」とツイートした。

ワクチン予防効果を弱める恐れ

SAGEは「特に懸念されるインド変異株の感染拡大はB.1.1.7(英変異株)より速いのは間違いない。インド変異株の感染者は1週間以内に倍に増えており、英変異株より最大50%も感染力が強いとみるのが現実的だ。インド変異株の感染が広がっている地域で、感染防止対策を緩和すれば感染はさらに急激に広がるだろう」と指摘する。

インド変異株の感染力が英変異株より40~50%強いと想定したSAGEのモデルでは、ステップ3の屋内営業再開だけでもこれまでのピークを上回る入院患者が発生する。ステップ4として6月に正常化に踏み切れば、さらに入院患者は膨れ上がる。インド変異株は、ワクチンの効き目がある英変異株とワクチンの効果を弱める南アフリカ変異株の間に位置する。

このためインド変異株は重症化や死亡リスクよりもワクチンの感染予防効果を弱める恐れがあるとSAGEは分析する。インド変異株が流行している地域の入院患者数はまだ増えていないことを理由に、ジョンソン首相はワクチン展開の加速と週2回の自己検査による変異株のあぶり出し、隔離の徹底でステップ3に進む判断を下したが、SAGEは否定的だ。

インド変異株の感染力は脅威である。コロナウイルスのゲノム解析を行う英ウエルカム・サンガー研究所のデータを見ると、英変異株が昨年11月以降、急激に拡大。今年3月には100%近い勢力を占めるようになった。インド変異株の勢力は現在まだ6.1%だが、英変異株より50%も感染力が強いとなると2~3カ月で100%近い支配勢力になるだろう。

kimura2021052602.jpg

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、2カ

ワールド

米・ウクライナ鉱物協定「完全な経済協力」、対ロ交渉

ビジネス

トムソン・ロイター、25年ガイダンスを再確認 第1

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story