コラム

「独自の核保有はあり得ない」とドイツ国防相が完全否定した理由とは──確実に進むアメリカと欧州の離反

2018年03月02日(金)13時06分

PESCOにしてもNATOを補完するものなら良いが、アメリカと利害が対立するようになれば有害でしかない。そんなものを作るぐらいならNATOへの貢献度を増すのが先決というのがアメリカの本音だろう。アメリカ軍と戦術核のプレゼンスは今も欧州の外交・安全保障の根幹をなしているが、欧州とアメリカの距離は確実に開いている。

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フォンデアライエン国防相(筆者撮影)

フォンデアライエンは「欧州は声を一つにして迅速に危機に対応するため、おそらく多数決方式に向かっていると考えています」「一つの国が欧州の総意を妨げようとしても邪魔立てできません」とEUの意思決定を迅速化させる重要性を強調した。

その一方で「軍を近代化するには数年かかります。ドイツだけではなく他の欧州諸国でも」と、急激な国防費増大にブレーキをかけた。ドイツは今年387億5,000万ユーロの国防費を2021年に426億5,000万ユーロに増やすが、それでも対GDP比の国防費はNATO目標の2%どころか1.5%にも届かない。

ドイツとフランスが結束を強めてEUの純化を図れば図るほど、ブレグジットは不幸な結末を迎え、アメリカのドナルド・トランプ大統領のフラストレーションはピークに達する恐れがある。アメリカの有力シンクタンク、ブルッキングス研究所のブルース・ジョーンズ副所長によると、トランプ大統領の「メルケル嫌い」はすでに相当なものらしい。


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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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