コラム

習近平の「ナショナリズム」は、かつて「大東亜共栄圏」を唱えた日本と同じ泥沼に突き進むのか

2023年07月26日(水)20時23分
アメリカと中国の分断(イメージイラスト)

SAKDA SOPALERT/SHUTTERSTOCK

<中国の習近平政権が強化する文明論的ナショナリズムで文明論的な対立が発生すると、国際社会には何が起きるのか>

中国の外交トップである王毅(ワン・イー)氏が、「頭を金髪に染めて鼻を高くしても決して西洋人にはなれない」と発言し、物議を醸している。「欧米の価値観が全てではない」ということを主張したものだが、日韓に対して、中国の秩序に入ることを強要している、あるいは身体的特徴に関する発言であるとして、問題視する見解が多いようだ。

発言の真意はともかく、3期目に入った習近平(シー・チンピン)政権は文明論的ナショナリズムを強化しているように見える。アメリカの出方次第ではあるものの、文明論的な対立が発生すると、国際社会は極めて厄介な状況に陥る。

習政権はナショナリズムを強く意識しており、以前から「中国には中国のやり方がある」という発言を繰り返してきた。ナショナリズムを強調するという点では従来と同じだが、今回の王毅氏の発言は東西文明の分断を明確に主張している点で少し状況が異なっている。

よく知られているように、アメリカはトランプ政権以降、中国を敵視する戦略に切り替えた。半導体などハイテク製品を中心に相互に輸出規制を加えるようになり、両国貿易は停滞が続く。

経済学的に見ると、関税や輸出制限といった「モノの制約」は、両国経済の分断にそれほど大きな影響を与えない。市場は柔軟であり、迂回輸出など貿易制限を回避する方法はいくらでもあるので、双方に需要があるうちはビジネスが継続する。

人的な交流が制限されたときに起きること

だが人的な交流を制限すると、双方の情報が共有されなくなり、分断が一気に加速する。アメリカが発動した輸出規制には人的交流を制限する内容が含まれており、既に多くのアメリカ人技術者が中国から帰国した。

一方、中国も反スパイ法を改正するなど、外国人の活動を制限する方向に進んでいる。中国の経済情報を国外に提供する調査会社が、突如、理由もなく外国企業との契約を打ち切ったり、アメリカのコンサルタントやアナリストなど情報を扱うビジネスパーソンが反スパイ法のリスクから実質的に活動できなくなるといったケースが多数報告されている。

このまま人的な交流の制限が続けば、やがては商習慣や技術情報が共有されなくなり、分断が本格化するリスクが否定できない。

アメリカの政財界は、米中関係の過度な悪化に焦りを感じ、閣僚が相次いで中国を訪問するなどチグハグな外交になっている。一方、中国の4~6月期のGDP成長率が市場予想を下回り、実質で6.3%にとどまったことを受けて、中国側もアメリカとの対話を強く望んでいるとの報道は多い。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政府の対中禁輸措置、拡大延期で効力喪失の恐れ=元

ビジネス

米メタ、300億ドル調達へ過去最大の社債発行 AI

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想超え AIと

ビジネス

鉱工業生産9月は2.2%上昇、3カ月ぶり増 半導体
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面に ロシア軍が8倍の主力部隊を投入
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story