コラム

やはり「我々はみな死んでしまう」...財政政策に日本を成長させる力など最初からない

2022年09月14日(水)18時00分
日本経済イメージ

METAMORWORKS/ISTOCK

<経済が低迷する中で経済政策に期待する声は大きいが、本当に日本を救うのは、あくまでも短期的な措置である財政出動などではないと理解すべきだ>

日本経済が八方塞がりの状態に陥っている。諸外国はコロナ危機から経済を回復させ、今は進行するインフレとの戦いになっている。一方、日本は物価上昇率こそ各国よりも低く推移しているものの、経済は依然として低迷が続いている状況だ。

景気がなかなか良くならないことから、経済政策に期待する声は大きいが、日本の場合、経済の仕組みそのものに問題があり、一般的な経済政策では十分な効果を発揮しない可能性が高い。

財政や金融といった経済政策は、一時的な需給ギャップの解消など、短期的な経済の「目詰まり」を解消するためのものであって、持続的な成長を促すものではない。

財政出動の効果を理論化した経済学者のケインズは、自著『貨幣改革論』において「長期的に見るとわれわれはみな死んでしまう」として、あくまで短期的な措置であることを強調していた。財政出動のメカニズムは、ある均衡から次の均衡に至るまでの静的なものであり(線形モデル)、もし一連の施策が本当に効果を発揮するものならば、程度の違いこそあれ、既に何らかの成果が得られていたはずである。

現実を見れば一目瞭然だが、日本経済はあらゆる政策を総動員したにもかかわらず、30年間ゼロ成長が続いてきた。これは日本の景気低迷が単純な需給ギャップの問題ではないことを端的に示している。

ケインズの没後、長期的な成長について分析する経済成長理論が発達したが、それによると長期的な成長の原動力となるのは、供給サイドにおける3つの要因、すなわち、労働力(人口)、資本、そしてイノベーションである。実際、経済の長期予想においては、需要サイドではなく、供給サイドのモデルが使われており、長期低迷のヒントも当該モデルの中にあると考えるべきだろう。

イノベーションこそが日本を救う

3つの要因のうち、最も影響が大きいのは、3番目のイノベーションである。イノベーションを直接、数値化することはできないが、労働生産性を代理変数として用いることができる。

日本はこれから急ピッチで人口が減っていくものの、これまではほぼ横ばい推移しており、人口減少が経済の大きなマイナス要因ではなかった。加えて、戦後の高度成長による十分な蓄積があり、資本不足ということもあり得ない。日本経済の低迷は、生産性が伸び悩んでいることが主要因であり、その背景にイノベーションの停滞があることは間違いない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ダラー・ゼネラル、通期の業績予想を上方修正

ビジネス

実質消費支出10月は3.0%減、6カ月ぶりマイナス

ワールド

マラリア死者、24年は増加 薬剤耐性や気候変動など

ワールド

米加当局「中国系ハッカーが政府機関に長期侵入」 マ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story