コラム

2022年の経済を占う...物価と金利の上昇、そして日本経済の行方は?

2022年01月06日(木)17時11分
2022年の展望

ILLUSTRATION BY NUTHAWUT SOMSUK/ISTOCK

<世界的な物価上昇は今年も続く見通しで、いずれは日本の消費者にも影響が。厳しい立場の日本だが、再生のための近道はある>

2021年は世界経済に大きな変化があった。年後半から全世界的な物価上昇が顕著となり、半導体など重要物資が手に入りにくくなっている。一連の動きはパラダイムシフトを背景とした構造的なものである可能性が高く、22年の経済動向を占うポイントでもある。

1バレル=50ドル程度で取引されていた原油価格はコロナ危機直後の暴落を経て急上昇し、一時、1バレル=80ドルを突破した。先進国による備蓄放出や増産圧力で価格は多少落ち着いたが、大幅な値下がりはないとみる専門家が多い。脱炭素化が急ピッチで進み、将来的な石油の需要減が予想される一方、生産拡大には先行投資が必要であり、産油国にとっては巨費を投じて増産するインセンティブが働きにくい。

半導体の品不足も構造的な要因が影響している。近年、新興国の急激な経済成長によって半導体の需要は高まる一方であり、そこにコロナ危機が重なった。各国企業はコロナ後の新しい社会を見据え、AI(人工知能)を中心としたIT投資を急加速している。

もともと需要過多になっていたところに、一気に注文が増えたことから、増産が追い付かない状況であり、食糧や金属など他の1次産品の価格高騰にも似たようなメカニズムが働いている。つまり、パラダイムシフトを背景に、限りある資源をめぐる争奪戦になっている可能性が高く、短期的な需給のアンバランスではないとの見方が強まっているのだ。

さらに厳しい日本の立場

アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備理事会)は、21年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)で、金融正常化の前倒しや利上げの実施など、インフレ抑制を最優先する方針を明確にした。

オミクロン株による一時的なショックがあるにしても、世界経済はコロナ後に向けて動きだしており、金利を適切にコントロールできれば、好景気と穏やかな物価上昇を両立できる可能性がある。だが、こうしたシナリオは微妙なバランスの上に成り立つものであり、一歩間違えれば、物価と金利の上昇が加速し、世界経済を一気に冷え込ませるリスクもはらむ。

日本経済が置かれた状況はさらに厳しい。各国はコロナ後の景気回復期待とインフレリスクの両にらみだが、日本だけが世界経済の回復基調から取り残されている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story