コラム

インフレの条件は(ほぼ)整った──投資家たちは何を懸念している?

2021年03月10日(水)11時55分

ALEXSL/ISTOCK

<急激な長期金利の上昇への警戒感が強まっている。インフレが起きるメカニズムと現状を読み解くと......>

金融市場においてインフレが強く懸念され始めている。2020年の年末には1%を切っていた10年物米国債の利回りは急上昇(債券価格は低下)しており、既に1.5%に迫る勢いだ。急ピッチな金利上昇を嫌気して株が売られており、3万円を突破していた日経平均株は一時、2万8000円台まで下落した。

金利上昇とそれに伴うインフレ懸念には、コロナ後の景気回復期待と大型財政出動による通貨価値の毀損という2つの見方が背景にあり、現時点でどちらが優勢なのかは分からない。市場関係者は難しい舵取りを迫られるだろう。

量的緩和策の実施以後、世界の金融市場には大量のマネーが供給されており、インフレが発生しやすい土壌にある。こうしたなか、コロナ危機で経済活動が一時的に停滞したことや、コロナ後を見据えた経済のデジタル化への期待感からIT関連企業を中心に投資マネーが集中し、株価が高騰した。

欧米諸国はコロナ対策も兼ねて、ITインフラや脱炭素に巨額の財政支出を予定しており、景気回復期待と同時に、財政悪化による金利上昇とインフレを懸念する声も上がっている。

20年末までは、長期金利が1%を切っていたことから、懸念はあくまで一部の市場参加者だけのものだったが、1月以降、金利が急上昇したことで状況が変わってきた。著名な経済学者でクリントン政権の財務長官も務めたローレンス・サマーズ氏が「この30年で目にしなかったようなインフレ圧力を形成しかねない」と警告を発したことで、一気に議論が盛り上がった。

需要だけでなく供給の面でも

確かに世界経済の現状を冷静に分析すれば、インフレを引き起こす材料には事欠かない。量的緩和策による大量のマネー供給に超大型の財政出動が加わり、需要サイドの条件は完全に整っている。

一方、コロナ危機で全世界的サプライチェーンの見直しが行われているため、資材や食糧の調達が難しくなってきた。コンテナ滞留などの要因も加わり輸送コストはコロナ前よりほぼ倍増したが、それでも各社はコロナ後の景気回復を見据え、資材の確保に躍起になっている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は8日ぶり反発、米CPI後の株高や円安を好

ワールド

米ガソリン価格、近く1ガロン3ドル割れへ ハリス氏

ビジネス

英公的債務、今後50年で3倍も 生産性回復なら伸び

ワールド

トランプ氏の関税引き上げ案、海上運賃高騰招くと専門
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 4
    公的調査では見えてこない、子どもの不登校の本当の…
  • 5
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 6
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 7
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 8
    恋人、婚約者をお披露目するスターが続出! 「愛のレ…
  • 9
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンシ…
  • 10
    数千度の熱で人間を松明にし装甲を焼き切るウクライ…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 3
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
  • 4
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 5
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 6
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 7
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻…
  • 10
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 4
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story