コラム

消費税10%じゃまだ足りない、次の増税はグリーンな消費税?

2020年01月08日(水)17時41分

炭素税はCO2排出に関わる事業者に負担を求める仕組みだが TORU HANAIーREUTERS

消費増税に代わる財源として炭素税を活用する案が水面下で議論されている。正式な検討段階ではないが、これ以上の消費増税は政治的に難しいため、社会保障の財源として急浮上する可能性もある。

安倍政権は2019年10月に消費税の10%への増税に踏み切った。だが国民からの反発は大きく、安倍首相は「今後10年程度は消費税率を引き上げる必要はない」と述べ、再増税について否定的な見解を示している。この発言に対しては、公明党から異論が出るなど与党内が一枚岩ではないが、政治的にこれ以上の増税が困難というのはそのとおりだろう。

だが、財政という部分に論点を絞った場合、消費税のさらなる引き上げは、ほぼ避けられない状況だ。日本は高齢化が急ピッチで進んでおり、現状の医療や年金を維持するためには、まだ財源不足というのが現実だからである。

公的年金の支払いのうち保険料収入でカバーできているのは7割強しかなく、足りない部分は税金からの補塡である。医療についても国民から徴収する保険料収入は全体の半分程度であり、残りは年金と同様、税金からの補塡で成り立っている。

年金と医療を足し合わせた支出は年間100兆円に迫る勢いであり、この金額は政府の一般会計予算とほぼ等しい。

年金や医療は一般会計では処理されないので、予算関連のニュースではあまり取り上げられないのだが、これら社会保障費の規模の大きさを考えると、防衛費や公共事業費の多寡などは誤差の範囲でしかない。多少の経済成長を実現したところで、焼け石に水と考えたほうがよいだろう。

徴税対象は事業者だが

今後、日本では高齢者の比率はさらに上昇する。現状の社会保障水準を維持するのであれば、少なく見積もっても10兆円程度の財源が必要で、消費税の再増税でこれを確保するには4~5%程度、税率を引き上げなければならない。

11月にIMFが消費税を15%まで引き上げるよう日本に提言したのはこれが理由だが、今の政治情勢で再増税を実施するのはかなり難しいだろう。こうしたなか、水面下で議論されているのが炭素税の導入である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story