コラム

景気についての議論で「皮膚感覚」を軽視してはいけない理由:厚労省の不正統計問題から考える

2019年02月05日(火)14時05分

雇用保険は延べ約1942万人が対象(写真はイメージ) Miyuki-3-iStock

<日本経済が良くないという記事を書けば、一部から、常軌を逸した批判もあった昨年。数字と日々向き合って経済を分析している人間にとっては、「2018年に賃金が大幅に上昇」というのは、どうもおかしな話だったのだが...>

毎月勤労統計の不正をめぐり、厚生労働省が公表していた2018年1~11月期の実質賃金の伸び率が大半の月でマイナスになっていることが明らかとなった。2018年の賃金が大幅に伸びているという話はウソだったことになる。

統計は近代民主国家における礎であり、統計が信用できなくなったら国家としては終わりである。その意味で、今回の不正統計は極めて深刻な問題だと筆者は考えているが、今回、取り上げるのは少し違った視点の話である。

多くの専門家が首をかしげていた

厚生労働省は、毎月勤労統計調査において、本来、全数調査すべき東京都の事業者について勝手にサンプル調査に切り替え、しかもその補正を怠っていた。その後、同省は2018年以降のデータだけを補正するという意味不明の対応を行った結果、2018年から急激に賃金が上昇したように見えてしまった。

この作業は、麻生財務大臣による批判がきっかけだったともいわれており、一部からは、これが政権に対する忖度であると批判されている。

厚労省はその後、データの訂正を行ったが、得られた結果は、事業所を入れ換えたものだったことが判明。これがなければ、数字はさらに悪くなっており、大半の月がマイナス成長であったことが明らかとなった。同省では一連の批判を受け、データを再度集計する方針だという。
 
忖度の有無はともかくとして、「2018年は賃金が上昇している」という話は事実と違っていたことになる。

2018年に賃金が大幅に上昇しているというのは、筆者を含め、日々経済を分析している人間にとっては、少々、解せない話であった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ボーイング幹部、エア・インディア本社訪問 墜落事故

ビジネス

ソフトバンクG、Tモバイル株売却で48億ドル調達=

ワールド

ロシア、ウクライナ首都にドローン・ミサイル攻撃 1

ワールド

インド、年末までにEUと貿易協定締結の見通し=モデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 8
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story