コラム

過剰クレーム問題――本当の敵は社内にいる?

2018年08月07日(火)13時15分

今や病院はモンスター患者に悩む業種の一つとなったが、以前は、病院関係者の患者に対する横暴で無神経な振る舞いが社会問題になっていた時期もあった。昔の記事を見れば「病院はサービス業であることを認識せよ」といった主張があちこちに見られる。

タクシー業界も同様で、行き先が気に入らないからといって顧客を怒鳴る運転手などザラにいたし、役所の窓口に至っては、印鑑の向きが少し傾いているといって書類を突き返すなど、どちらがクレーマーか分からない状態であった。

日本のサービス業が顧客至上主義だというならば、顧客をないがしろにする業界慣行への激しい批判が、逆にこうした「主義」を作り上げた可能性もあるだろう。

過剰クレーマーは私たち自身が生み出している

結局のところ日本社会では、今も昔も、少しでも優位な立場にある人は、不利な立場にある人に対して、常に高圧的、暴力的に振る舞う傾向が強いと考えるのが自然ではないだろうか。

サービス提供者の方が立場が強ければ顧客が犠牲者になり、近年ではサービス業の従業員が犠牲になっている。もしこの仮説が本当なら、他人との関係性のあり方について根本的に見直さなければ、悪質クレームを撲滅することはできないだろう。

筆者は、自分自身で会社を経営した経験があり、コンサルタントとしても数多くの企業の現場を見てきたが、どの業種でも過剰クレーム問題は以前から存在していた。しかし、こうした被害を受けやすい企業とそうでない企業は昔からはっきり分かれている。

その違いは、企業のトップ、あるいは現場責任者が明確な意思を持っているかどうかである。

企業トップや現場責任者が、不当な要求に対しては毅然と対応するという明確な意思を示していれば、担当者が1人で過剰クレームを抱え込むことにはならない。だが、責任の所在がはっきりしない職場では、クレームを受けた担当者が上司につないでも、上司がこれを拒否するケースが多い。

責任の所在が曖昧で、風通しの悪い組織では、社員どうしの足の引っ張り合いも多く、クレームを受けた担当者が悪いといった話になりがちである。上層部に報告しても、現場のトップが責任を取らされることになるので、誰も積極的に対応しようとしない。本当の敵はクレーマーではなく、実は社内に存在しているのである。

責任の所在がはっきりした近代的な組織を構築することができれば、担当者は安心して毅然とした対応ができるので、過剰クレーム問題の大半は自然に解決される。過剰クレーム問題というのは、実は、日本の組織そのものに対する課題なのである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

レバノン死者300人近くに、イスラエルは「壊滅的な

ワールド

ロシアがドローン・ミサイル攻撃、ハルキウで少なくと

ワールド

トランプ氏、イランとの交渉「関心ない」 全指導者排

ワールド

アングル:ベトナム、新興国格上げ目前に海外資金流出
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 6
    女性の顔にできた「ニキビ」が実は......医師が「皮…
  • 7
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 8
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ル…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story