コラム

EUを離脱した英国は「ノルウェー化」か「中国蜜月」を目指す?

2016年06月27日(月)16時17分

 資金の手当が付かず取引先が倒産するのではないかと皆が疑心暗鬼に陥ることになり、資金の引き上げや投資の手仕舞いをさらに加速させてしまう。まさにパニックの連鎖であり、これが金融危機の正体である。

 金融危機は、短期的に資金繰りのメドが立たなくなることが原因であり、経済そのものが崩壊したわけではない。こうした事態に対処するためには、中央銀行や政府が市場に流動性を供給してやればよい。当面、必要となる資金について政府が保証することで、パニック的な行動を回避することができる。実際、リーマンンショック直後、米国政府とFRB(連邦準備制度理事会)は即座に流動性の供給を打ち出し、混乱を短期間で収束させた。

 かつて日本においても、旧山一證券が株価の急激な下落によって資金繰りがつかなくなり、倒産寸前まで追い込まれたことがある(40年不況)。この時は田中角栄蔵相(当時)の鶴の一声で、日銀による無制限融資が決定された。同社はギリギリで倒産を免れ、その結果、連鎖的なパニックは発生せず、しばらくすると市場も安定した(山一證券はその後、80年代バブルの後遺症で1997年に自主廃業に追い込まれている)。

 日本のバブル崩壊やリーマンンショックの経験から、各国の中央銀行は金融危機への対策を何重にも講じている。今回の国民投票に際して、各国の中央銀行はドル供給のスキームについて事前協議を行っており、仮に決済用の外貨が不足する事態となった場合には、各国が協調して対応するだろう。想定外の事態に株価は軒並み下落しているが、これが金融危機にまで拡大する可能性は低いと考えるのが妥当である。

実質的にはEUに残るという選択肢も可能

 金融危機が一段落すると次に懸念されるのは経済危機の方である。リーマンンショックは、米国のサブプライムローンという金融商品が生み出したバブルであり、米国経済は順調そのものであった。つまり金融危機にさえ対処できれば、経済危機までには至らないと多くの専門家が予想していた。実際、世界経済はその後、順調に回復している。

 だが今回のEU離脱は、どちらかというと、金融面の影響よりも、英国が離脱したことによる経済面での影響が大きい。ただ、経済的な影響についても、筆者はそれほど悲観する必要はないと考えている。その理由は、今回の国民投票によって、英国が完全にEU圏内から外れてしまうとは限らないからである。

 英国は間もなくEUに対して離脱の宣言をすることになるが、実際に離脱となるのは2年も先のことである。その間、英国とEUは、新しい協定の締結に向けて交渉を行うことになる。つまり最終的に英国とEUの関係がどうなるのかは、現時点ではまったく分からないのである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story