コラム

高度成長期って何? バブル世代も低成長時代しか知らない

2016年03月15日(火)15時41分

高度成長期は60年代で終了している

 ここでひとつの疑問が生じてくる。今の若者は「高度成長期」を過ごした(とイメージされている)中高年の発言に辟易しているが、今の中高年が若手だった時も「高度成長期」を過ごしてきたその上の世代の発言に辟易している。では、高度成長期とはいったい、いつのことを指しているのだろうか。

 図は1945年からの日本におけるGDP(国内総生産)成長率の推移を示したものである。時代によってGDPの算定基準が異なるので、厳密には連続データにはできないものだが、ここでは分かりやすいように連続データとして扱っている。

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 一般的に高度成長期と呼ばれる時代は、1955年から1973年の期間のことを指している。1956年の経済白書には有名な「もはや戦後ではない」という言葉が盛り込まれ、1960年には池田内閣が所得倍増計画を打ち出した。この期間における経済成長率の平均は9.3%であり、文字通りの高度成長であった。

 しかしオイルショックをきっかけに日本経済は様変わりし、一気に低成長時代に突入する。1970年代の平均成長率は4.5%、バブル期だった1980年代の成長率も4.6%とほぼ同じである。バブル期は猛烈に成長していたイメージがあるが実際はそうでもない。株価や不動産価格の高騰が顕著だったので、そのようにイメージされるだけである。

 ゼロ成長が当たり前となった今から見れば高い成長率かもしれないが、日本経済の仕組みが根本的に変わったという点において、60年代と70年代の断絶は大きい。高度成長期は60年代で終了し、70年以降は低成長時代がずっと続いてきたと解釈するのが妥当である。

【参考記事】「エンゲル係数急上昇!」が示す日本経済の意外な弱点

 現在、50歳前後になっているバブル世代はまさに低成長時代の申し子であり、実際に70年代の記事を見ると、低成長時代に育った子供たちは、豊かな環境が当たり前なので思考回路が旧世代とは異なるという記述がよく見られる。つまり、今の現役サラリーマンにとっては、どの世代であれ、高度成長期はすべて過去の出来事なのである。

 したがって、先ほどの「高度成長期のようにはいかない」という識者の発言は厳密にいうと正しくない。高度成長期は、はるか昔のことであり、今の現役世代で高度成長期を経験した人間はほとんどいないからである。おそらく識者はこのあたりもよく承知した上で、中高年世代に共通するイメージとして「高度成長期」という言葉をあえて使ったのだと思われる。

 こうしたことから何が分かるだろうか。ひとつ言えるのは、世間が持つ時代に対する認識はかなり曖昧であり、20年以上の前のことになると、多くの記憶が混同されてしまうという現実である。今の20代にとっても、20年前の20代にとっても、上の世代は「高度成長期」なのである。時代の変化について考える際には、こうしたバイアスが存在することを念頭に置いた方がより冷静な判断ができるかもしれない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネスなどの分野で執筆活動を行うほか、テレビやラジオで解説者やコメンテーターを務める。『お金持ちの教科書』(CCCメディアハウス)、『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『本気で考えよう! 自分、家族、そして日本の将来』 (幻冬舎新書)など著書多数。

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