コラム

2016年の世界経済のカギを握るのはやはり原油価格

2016年01月05日(火)15時45分

 だが、原油価格が下がってもっとも困るのは、最大の産油国の1つでありながら、採掘コストが高いロシアであることは明白である。実際ロシアやベネズエラなど、国家収入の多くを石油に頼る反米的な国が、今回の原油価格低迷によって大打撃を受けている。一般的に思われているほど、原油価格低迷によって米国経済が影響を受けているわけではない。サウジアラビアと米国が原油価格をめぐって対立関係にあるというのは、少々、短絡的な見方といえるだろう。

 では、原油価格の低迷は、世界経済に対してどの程度の影響を与えるのだろうか。米国、欧州、日本といった先進国は、合計すると1日あたり3600万バレルの原油を消費しており、これは全世界の産出量の4割に達する。

 原油価格は2014年以降、1バレル=100ドルから40ドルへと下落しているが、これは産油国に支払われる原油の販売代金が半額以下になったことを意味している。金額にすると年間約95兆円に達するのだが、原油価格の下落は、毎年100兆円近くの富が産油国から先進国に移っていると言い換えることが可能だ。

 先進国は安価にエネルギーを手にすることができるので、当然、経済の活性化につながる。特に石油の消費量が多い米国では、原油価格が1ドル下がると個人消費が1%増加するとまで言われる。実際の影響はもっと小さいかもしれないが、原油価格の下落分がそのまま他の消費に回ると仮定すると、数字上はGDP(国内総生産)を1.5%押し上げる効果を持つ。

 先進国にとって原油安は長期的なメリットが大きいということになるが、裏を返せば、資源国にとってはマイナスということになる。石油の販売代金減少が経済を低迷させることになるし、短期的には投機資金の引き上げによって市場が混乱する。実際ロシアでは、大量の資金が国外に流出して通貨ルーブルが暴落、10%を越えるインフレが発生して国内経済は大混乱となっている。

現在の原油価格40ドルはおそらく「底」

 整理すると、原油価格の低迷は、短期的には金融市場に混乱をもたらすものの、長期的には先進国経済を活性化させることになる。一方、資源国の経済は短期的な市場の混乱が終わっても、しばらくは低迷が続く可能性が高くなる。教科書的に考えれば、短期的な市場の混乱はそろそろ収束しつつあり、先進国経済の活性化という長期的なメリットが顕在化してくるタイミングということになるだろう。

 このまま先進国経済が原油安のメリットをうまく享受する形になれば、2016年の世界経済は比較的安定的に推移することになる。ただ少々気になるのが、米国が持つ石油に関する二面性である。米国は世界最大の石油消費国だが、冒頭に述べたように世界最大の産油国でもある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

実質金利は極めて低水準、見通し実現していけば利上げ

ビジネス

国債買入「市場との対話踏まえ決定」と林官房長官、物

ビジネス

日経平均は続伸、米株高・円安が支え 中東情勢への過

ビジネス

米アマゾン、今年は「プライムデー」を4日間に拡大 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 9
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story