コラム

「トランプの逆襲」で世界はどうなる?

2024年02月08日(木)18時00分
安倍元首相(当時)とトランプ大統領(当時)

故安倍元首相(右)はトランプと良好な関係を維持したが(17年) TORU HANAIーPOOLーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<過剰反応、先走りは禁物だが、一番心配されるのは世界の文明の行き先をアメリカが変えてしまうこと>

『キングコングの逆襲』よろしく、いまアメリカではドナルド・トランプ前大統領が共和党予備選を制圧中。在任中、散々振り回された諸国では、識者らが集まって「トランプ2.0」でどうなるか、議論を重ねる。

特にそれが目立つのは、NATOの欧州諸国。「トランプはウクライナを捨てて、ロシアと手を握る。そして在欧米軍も減らすだろう」というわけだ。実際には、在任中のトランプが欧州諸国に求めた自主防衛努力は強化されているし、ドイツのアンゲラ・メルケル前首相とけんかにまでなったロシアからの天然ガス輸入は、3分の1ほどに減少した。今更米欧対立の種はないのだが、欧州諸国の思い込みと先走りが事態をあらぬ方向に動かしてしまうだろう。

 
 

例えば、「トランプはロシアと手を握る」と思い込んだ欧州諸国、特に独仏首脳はトランプに先行して(そうしないと、自分の値が下がる)モスクワ詣でをするだろう。ばか正直な日本は、「気が付いてみたら、ロシアに厳しいのは自分だけだった」ということにならないよう、気を付けないと。

中東でトランプは第1期の政策を続けるだろう。アラブ諸国とイスラエルの和解(2020年の「アブラハム合意」)が彼の自慢の種だから、パレスチナはそのはざまで黙らされるだろう。強権主義の中東諸国政府はトランプと相性がいい。トランプのアメリカは中東諸国と同じ無原則、権益優先の行動を示すことになるだろう。

アジアでは、中国との関係がどうなるか。端的に言って、トランプに「戦略」はない。「何でもいい。アメリカの支持者にはっきり業績として示せること」が欲しいだけだ。例えば中国の対米貿易黒字の半減とか。

日米同盟に変わりはないが......

心配なのは、中国と貿易問題での「ディール」の最中、取引の道具としてお門違いの台湾を使う可能性があることだ。今、「台湾有事」の可能性は後退しているのだが、トランプは危機をあおり立てて中国に圧力をかけ、中国が貿易問題で譲歩すれば、台湾をソデにする......台湾ではこのようなシナリオが恐れられている。

トランプは、日本に対してどう出てくるか。読めない。在任中の彼は、「日本は日米安保にただ乗りしている。もっとカネを出せ」という、「古典的な」圧力をかけてきた。「日本がカネを出さなければ米軍は引く」という脅し文句をつけて。しかし彼は安倍首相(当時)に、日本は十分以上にカネを払っていることをゴルフ仲間として説得され、珍しく納得した。米軍からも、日本の基地はアジアでの米軍の運用に不可欠だと言われたことだろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー経済に回復の兆し、来年度3%成長へ 世銀

ワールド

ハマス武装解除よりガザ統治優先すべき、停戦巡りトル

ビジネス

米ロビンフッド、インドネシアに参入 証券会社と仮想

ワールド

イタリア、25年成長率予想を0.5%に下方修正 2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story