コラム

中国・ロシアが退潮する世界で、際立つ日米協調「G1.5」の存在感

2019年06月13日(木)13時30分

ゴルフ場でトランプを出迎える安倍(5月、千葉) KIMIMASA MAYAMA-POOL-REUTERS

<欧州議会選もペルシャ湾への米艦派遣も結局腰砕け――習近平もプーチンも弱みを抱えて笑うのは「安倍トラ」だけ>

国際問題は闇に輝くネオンのごとし。その鮮やかさで目を奪うと瞬時に夜陰に消え、忘れられていく。米朝首脳会談も期待のバブルがはじけ、旧態依然の対立に逆戻りした。

5月には米空母艦隊がペルシャ湾に結集する騒ぎになったが、アメリカ、イラン、サウジアラビア、イスラエルとも腰砕け。戦争でも平和でもないグレーの現状維持となった。欧州議会選挙もEU瓦解、欧州の総右傾化となるほどではなかった。

トランプ米大統領の訪日も、現状維持の最たるものだった。トランプは貿易や防衛問題で日本を踏みにじる要求を突き付けることもなかった。夏の参議院選挙を控えた安倍政権に理解を示し、護衛艦「かが」で日米結束を誇示することに終始した。

欧州も中国も停滞するなか、日米両国は今やG2(二大超大国)、あるいはG1.5として世界に重きをなしてきた。安倍晋三首相は6月12~14日に米・イラン仲介を意識してイランを訪問し、28~29日には大阪で20カ国・地域(G20)首脳会議を主催する。安倍政権は盤石となり、次期衆議院選挙、憲法改正、トランプ再選も見越して、自身の任期再延長もあり得る情勢だ。

変転する世界情勢の下、一貫した底流がいくつかある。

年金問題でプーチンが窮地

1つは中国台頭時代の終焉だ。米制裁で中国経済の脆弱性が暴かれた。半導体の自社生産を豪語していた華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)も、実際は英半導体設計大手アーム社などの欧米企業に技術面で依存していたことが明らかになった。

中国の対米輸出は激減し、今年の経常収支は赤字だろう。外国企業、そして中国企業でさえ、輸出品の生産工場を中国国外へ移転する動きを強める。流入外貨を元手に中国国内のインフラ投資でGDPを膨らませる手品は効かなくなり、代案はない。

それでも中国共産党政権は持久戦など、毛沢東時代の旧式な政治・軍事戦術を現代の経済に持ち込んでいる。豊かになった中国の市民は共産党との無理心中には耐えられまい。

中国が世界のサプライチェーンから外れ、「一帯一路」経済圏構想など対外拡張傾向の退潮がこれからの底流となるだろう。毛時代のように、周辺諸国を政治工作で内部からかき回す国になるかもしれないが。

もう1つの底流がロシアのプーチン政権の低迷だ。アメリカなど他国の指導者の立場が不安定な隙を突き、プーチンはウクライナとシリアに派兵。強くて賢い指導者として世界で株を上げた。ただプーチンは昨年6月、公約を破って年金支給開始年齢の大幅引き上げを発表してから、支持率を回復できないでいる。一時は2%前後に回復した経済成長率も、今年第1四半期には年率0.5%へと再び低下した。

こうしたなかで、「80年代末期の閉塞した時期と同様、国民は革命的な権力交代に賭けてみようかという気になっている」と指摘するロシア識者たちの声が目に付く。9月の地方選挙でその動きが表面化し、次期指導者が現れるかもしれない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ウ和平交渉で立場見直し示唆 トランプ氏

ワールド

ロ、ウ軍のプーチン氏公邸攻撃試みを非難 ゼレンスキ

ワールド

中国のデジタル人民元、26年から利子付きに 国営放

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、11月は3.3%上昇 約3年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story