コラム

張本勲が「真の男」とたたえた尹錫悦...今後の日韓関係、左右するのは「韓国の国内政治」

2023年06月06日(火)14時30分

朝鮮日報は保守系新聞であり、対日融和を進める尹政権の施策を正当化する意図を見るのは容易である。「野球をしていたからか、ほとんど差別されませんでした」とも、張本はインタビューで話している。しかし重要なのは、張本が自らの実績により差別や貧困を克服したように、韓国の人々もまた経済発展や国際的地位の向上により、過去の日本への否定的な認識を克服していくのかを問うことだ。

忘れてはならないのは、われわれの住む社会は、張本のような成功した人々によってのみ構成されているわけではないことだ。繁栄からこぼれ落ち、その結果、進歩系の野党を支持する人々が一定数おり、彼らに繁栄の結果としてプライドを持て、というのは酷に過ぎる。

だからこそ、成功から排除された人たちにどう向き合うかは、国内問題のみならず、対外意識を考える上でも重要になる。そしてそれは、尹錫悦政権がこれまで対立して来た人々との関係をも取り結ばなければならないことを意味している。

張本がインタビューで「真の男」とたたえた尹錫悦は、そんな成長の恩恵から排除された人たちに、どうやって「プライド」を与え、自らの対日政策の意義を理解させるのか。今後の日韓関係を左右するのは、韓国の国内政治になるのかもしれない。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本のCEO
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月1日号(6月24日発売)は「世界が尊敬する日本のCEO」特集。不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者……その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

外国企業復帰、ロシアの利益になるかどうか注視=検事

ワールド

石破首相、NATO首脳会議出席取りやめへ 岩屋外相

ワールド

豪、米のイラン攻撃を支持 外交再開呼びかけ

ビジネス

独アウディ、トランプ関税対応で米での工場建設案が浮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story