コラム

国家内の分断「ハイブリッドな内戦」が始まる......すでに極右は主流になったのか?

2023年12月07日(木)19時00分

ヨーロッパに極右はいない

不可視化された人々が多数派だという認識は、これまで自らを多数派と考えてきた人々にも広まっている。11月27日のタイムズの記事は、「極右」という呼び方に異を唱えた。なぜなら、ヨーロッパの主流はもはや彼らなのだから、「極」という言葉は当てはまらないというのだ。

正直、個人的にはそうでないと思いたいが、多くの国の選挙の結果はその可能性が高いことを示している。それでもかつての主流派の多くは、まだ自分たちを主流派だと考えているだろう。なぜなら、社会の多くの側面はまだ彼らを中心に動いているからだ。政治は交代が始まり変化が可視化されたが、文化ではまだそうなっていない。しかし、「Rich Men North Of Richmond」や「サウンド・オブ・フリーダム」のヒットは、文化面でも主役の交代が始まったことを告げている。

 
 

調査結果が示した反主流派の実態

極右、陰謀論者、白人至上主義者などを総称して「反主流派」と私は呼んでいる。多数派となってしまったので「反主流派」と呼ぶのには語弊がありそうだが、特定のイデオロギーを持たず、反エスタブリッシュメントや社会への不満で動機づけられているため「反主流派」という言葉が合うような気がする。

極右、陰謀論者、白人至上主義者などは異なるグループのように思えるが、特定のグループがその時々に合ったテーマに合わせて活動しているのが実態に近い。コロナのパンデミックの最中には反ワクチン、ウクライナ侵攻が始めればそちらについて発言する、といったぐあいだ。たとえば、2021年1月6日に、アメリカ連邦議事堂を襲った人々は、トランプ支持者であると同時に、陰謀論者だったり白人至上主義者などだった。

11月末に公開されたInstitute for Strategic Dialogue(ISD)の調査結果でこうした状況を統計的に確認できた。アイルランドのネット情報空間について包括的な調査を行ったものだが、同様の傾向は他の地域にも当てはまりそうだ。

この調査ではネット上の言説の9つの主たるテーマを特定した。陰謀、健康・衛生(特にコロナ)、移民、エスノナショナリズム、アイルランドの政治、気候変動、LGBTQ+、ロシア・ウクライナ紛争、5Gである。表をご覧いただくとわかるように複数のテーマを含んでいることが多い。健康・衛生(ほとんどはコロナ関連)についての発言で陰謀論にも言及している割合は24.49%、健康・衛生について発言している発言に他の8つのトピックスについての言及がある割合の合計は90.88%(重複があるため高めに出るのだが)となっている。

ichida20231207a.jpg

また、時期に合わせて取り上げるテーマが変わっていた。

ichida20231207b.jpg

余談であるが、この調査は12のSNSプラットフォームを対象にしていた。誤報と偽情報のエコシステムの中で最も活発な活動が行われているプラットフォームはX(かつてのツイッター)だった。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story