コラム

ウクライナ対ロシア 市民も参加するサイバー戦は今後どうなる

2022年07月26日(火)18時32分

政府と一般参加者の混ざり合ったハイブリッド・アクター

完全に自発的なグループなら非国家アクターと言うべきだが、政府の関与がある以上、純粋な非国家アクターとは言えない。ハイブリッド・アクターとでも呼ぶべきだろう。前述したようにハイブリッド・アクターそのものは以前から存在した。しかし、今回のウクライナIT軍の登場で新たな課題が明らかになった。

ウクライナIT軍にもロシアのハクティビストグループにも世界各国から一般人が参加している。そしてほとんどの国においてDDoS攻撃を行うことはなんらかの法律に触れる可能性が高い。実際、ウクライナIT軍がパートナーとして掲載していたDDoS攻撃サービスのサイトIPStressはFBIとアメリカ司法当局にドメインを差し押さえられ、Killnetのメンバーはイギリス当局に逮捕されている。

その一方でいくつかのメディアには名前つきでウクライナIT軍に参加しているメンバーが登場しているし、SNS各社はいまのところ世界的に展開しているこれらの犯罪行為を実施、推奨するグループを排除していない。

法規制が追いついていないことにくわえて、反ロシア・親ウクライナを掲げるグループに手を出しにくい事情もある。グローバルノース(欧米プラス日本、韓国)では反ロシア・親ウクライナの主張が、多くのメディアや著名人の間で共有されている。ウクライナIT軍に参加しているアメリカ市民が次々と検挙されるような事態になれば、抗議の声が殺到することは間違いない。親ロシア・反ウクライナを標榜するKillnetのメンバーが逮捕されているのは抗議の心配がないからからもしれない。

意図的に法を破って、第三者に危害を与えることは犯罪行為あるいはテロ行為とみなされる。紛争当事国以外の一般人が、法律を破ってどちらかの国に損害を与える行為も同様だ。しかし、現実問題として30万人を検挙できるものだろうか? その時、抗議はどれほど大きなものになるのだろうか?

法的問題だけではなく多数の市民がロシアに対するサイバー攻撃に加担していた場合、国としての行動とみなされて報復される可能性もある。個人が身体ひとつで義勇兵として現地に赴くなら、そんなことにはならないだろうが、数万人が一挙に戦闘に参加したら問題になるだろう。

ウクライナIT軍30万人の行為が各国で許容されれば、各国はサイバー攻撃においてハイブリッド・アクターをより多く使用するようになるだろう、それもSNSを活用した大規模な形で。今後の展開から目が離せない。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ワールド

ロ凍結資金30億ユーロ、投資家に分配計画 ユーロク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story