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アングル:ほころぶ忠誠派の基盤、イラン新指導者とイスラム体制存続に試練

2026年03月10日(火)11時06分

テヘランで、新しい最高指導者モジタバ師の絵を手にする女性。3月9日撮影のWANA提供写真。REUTERS

Parisa Hafezi Angus McDowall

[ドバ‌イ 9日 ロイター] - イランで殺害されたハメネイ師の後継者として新た‌な最高指導者に選ばれた次男のモジタバ師は、外部からの大規模な攻撃と国内で高まる怒りに直面​している。モジタバ師の先代の最高指導者たちを支えた熱狂的なイデオロギー信奉者たちの支持は、かつてほどはっきりしていない。

イラン革命体制を支える軍事組織「革命防衛隊(IRGC)」やそ⁠の巨大なビジネスネットワークの内部に深い影響​力を持つモジタバ師は、父が1週間余り前に米国とイスラエルの空爆で殺害された際、攻撃を生き延びた。

イランの最高指導者を選出する権限を持つ「専門家会議」が8日夜遅くにモジタバ師を選出すると、イラン国営テレビはイスラム共和国の支持者たちが路上で祝う様子を放映した。

しかし、ロイターが革命防衛隊傘下の民兵組織バシジのメンバー3人や一般市民、当局者、政治アナリストたちに実施したインタビューからは、イスラム共和国がかつて享受していた支持基盤が、大幅に縮小している状況⁠がうかがえる。

英セントアンドルーズ大教授(現代史)アリ・アンサリ氏は「新指導者に強硬派を選んだ戦略は支持基盤を固めるためだろうが、結局は支持者の輪が一層狭まりつつある。こうした状態が長く続けば続くほど、あらゆるところでほころびが広がるだ⁠ろう」と指摘​する。

1979年の革命で誕生したイスラム共和国は数百万人のイラン国民に支持された。しかし、数十年にわたる汚職、抑圧、失政のために支持が後退し、多くの一般市民は離反した。

それでも、中核となる忠誠派は依然存在しており、イスラム体制を支えるために投票し、反政府デモを鎮圧するために街頭に姿を現している。

テヘラン出身の大学生であるザフラ・ミルバゲリさん(21)は「彼(モジタバ師)が新指導者になってとてもうれしい。亡き指導者の道は続くだろう」と語った。

高度に組織化されて迅速に動員できるこれらの忠誠派は体制転換を狙う米国やイスラエルにとって依然として大きな障壁となっている。

宗教教師でバシジのメンバーであるマフディ・ラステガリさん(32)は「われわ⁠れは多くの殉教者を出してきた。彼らは指導者のために命を捧げたのだ。われわれは彼(モジタバ師)のために‌命さえ惜しまない」と言い切った。

<引き潮の支持>

トランプ米大統領は以前、イランの新たな最高指導者候補としてモジタバ師を拒絶しており、イスラエルは⁠イランを率い⁠る人物は「誰でも標的とする」と警告している。トランプはニュースサイト「タイムズ・オブ・イスラエル」からモジタバ師の指名について問われて、ただ「何が起きるか見てみよう」とだけ答えた。

公式結果によると、先の大統領選挙で最も強硬派の候補者だったサイード・ジャリリ氏は第1回投票で約900万票、決選投票で1300万票をそれぞれ獲得したが、有権者資格を持つイラン国民6100万人以上のごく一部に過ぎない。

それにもかかわらず、爆撃の継続は変革を望む人々の間に混乱と抑圧に対する恐怖を募らせている。

「革命防衛隊と現体制はまだ強力だ。‌彼らにはこの体制を維持するために戦う準備ができている数万人の軍隊がある。われわれ国民は何も持っていない」と、アラー​クのビジネス‌マンで名字を伏せるよう求めたババクさん(34)は⁠語った。

<支配のネットワーク>

最高指導者が開戦初日に殺害されて国内の​ヒエラルキーには亀裂が生じており、イスラム共和国に対する強硬派の支持は今やかつて経験しなかったような試練にさらされるだろう。

バシジのメンバーのラステガリさんのような男性たちこそが、今では爆撃で破壊されたテヘラン中心部にある最高指導者の事務所からあらゆる村落や街の近隣までおよぶ権力のネットワークを体現している。

強硬派はハメネイ師の死後から毎晩、爆撃が国中で降り注いでいるにもかかわらず国家公認の追悼儀式を催してきた。

そうした強硬派の中には、神に導かれた聖職者による統治だとみなして熱狂的に信じ殉教者として死ぬ‌覚悟ができている人々がいれば、体制の公の支持者としての地位によって利益を得てきたより功利的な動機を持つ人々もいる。

別のバシジ隊員であるアリ・モハンマド・ホセイニさん(29)はシーア派の聖地コムにある父親の食料品店の仕事を終えると、夜は検問所に立って国民にわ​ずかでも反政府の動きがないよう目を光らせている。

ホセイニさんはハメネイ師の後⁠を継ぐ聖職者ならだれでも「宗教的義務」として支持するだろうし、そのために死ぬ覚悟があると語った。

しかしながら、そのような献身的態度は一様でない。シーア派の巡礼都市マシャドに住むバシジ隊員でハサンという名前だけを公表するよう求めた男性(29)は、イスラム共和国が存続できるかどうか疑問を抱いている。

「現実的にな​る必要がある」と述べ、米国の継続的な圧力と徹底的な破壊力のある空爆で廃墟と化した国内の様子を指摘した。

バシジのメンバーや体制に忠誠心を示しているその他の人々は数十年にわたって大学の優先入学や就職の斡旋、助成金付きの融資を含めた特権を幾つも享受してきた。しかし、崩壊しつつある経済がそのような恩恵を終わらせようとしている。

「われわれはもはや空港さえもない。港も全くない。どのようにしてこの経済を再建するのだろうか」とハサンと名乗る男性は問いかけた。

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