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アングル:日中対立激化、新たな円安の火種に 利上げ見送り思惑に拍車

2025年11月19日(水)17時34分

写真は日中の国旗。2018年10月、北京にで撮影。 REUTERS/Thomas Peter

Shinji Kitamura

[東京 19日 ロイター] - 外国為替市場で、日本と中国の対立が新たな円安手掛かりとして意識され始めた。今後、中国が態度を硬化させて観光客の渡航禁止や貿易規制などに踏み切れば、日本経済への一段の打撃は避けられず、日銀が利上げを見送る要因になりかねないとの思惑が浮上している。高市政権下で強まる円安圧力が、一段と増大する可能性が出てきた。

<日中対立、2つの経路で円安圧力に>

弱含みが続く円相場の関係者の間で、日中対立の激化に警戒感を示す声が増えてきた。「中国から、これまでにない強いけん制姿勢を感じる。安全保障に問題意識を強く持つ高市早苗首相のスタンスを、よほど警戒しているのではないか」と、ある大手銀の為替トレーダーは警戒心を示す。

軸となるのは、日本経済への悪影響に対する懸念だ。香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストは18日、著名航空アナリストの話として、中国政府の訪日自粛呼びかけ後、数日間で日本行きの航空便約49万件のキャンセルが生じたと伝えた。新型コロナウイルスがまん延した2020年初頭以来の、大規模なキャンセルになるという。

三井住友銀行市場営業部為替トレーディンググループ長の納谷巧氏は、中国が今後、強硬姿勢を強めて渡航や輸出の規制などを打ち出せば、日本経済への影響が大きくなり、円相場の下落圧力が高まる可能性があるとみる。

「インバウンド(訪日外国人)需要が減退しても、景気減速で日銀が利上げどころでなくなってしまっても、どちらも円安圧力となる。先行きを見通すのは極めて困難だが、新たな円安材料ではある」と指摘する。

円は、中国が渡航自粛を呼びかけた14日以降に下げ足を速め、きょうまでに対ドルで155円後半と9カ月ぶり、ユーロやスイスフランに対しても過去最安値を更新するなど、売り圧力が一段と強まっている。

きょう午後には、中国政府が日本産水産物の輸入を停止すると日本政府に伝えたとの報道もあり、中国側の姿勢に軟化の兆しは今のところみられない。

<中国インバウンド消失、経常黒字とGDPが同時減少>

みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏も、中国の姿勢について「利上げをにらむ日銀にとって、新たなリスクが浮上してきたのは確かだ。トランプ関税より対中関係の不透明感のほうが、現実的な懸念となりつつあることは間違いない」と警戒感を示す。

観光庁によると、昨年の訪日外国人旅行消費額に占める中国の割合はトップの21%で、約1.7兆円だった。今年も1─10月の訪日外客数3555万人のうち、中国は1位の820万人と、全体の2割強を占める大きな存在感を示している。

この1.7兆円は、日本の名目国内総生産(GDP)の約0.3%に相当する。インバウンドの減少は経常黒字の縮小を通じて通貨安につながりやすく、GDPの減少は利上げ後ずれの思惑となって円安圧力となる可能性がある。

現在の円金利先物市場では、12月利上げの織り込みが3割程度まで低下してきたが、1月利上げはまだ7割超と予想されている。

一方、日銀に利上げを求めたとされる先のベセント米財務長官発言もあり、「政府が物価高対策を進めている現状、さらに円安が進めば、日銀が利上げを実施するとの思惑が市場で高まりやすい」(日本総研主任研究員の松田健太郎氏)状況にも、大きな変化はない。円相場はしばらく安値圏の攻防が続きそうだ。

ロイター
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