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アングル:特産品は高麗人参、米中貿易戦争がウィスコンシン州中部直撃

2025年10月26日(日)07時31分

 10月23日、 米中西部ウィスコンシン州中央部の冷涼な森林地帯は氷河期の鉱物が豊富に含まれた土壌が広がり、アジア向けに輸出される薬用植物「高麗人参」の栽培に最適な地域となっている。写真は8月、ウィスコンシン州エドガーで、高麗人参の種苗の様子を見る生産者のジョー・ヘイルさん(2025年 ロイター/Julie Ingwersen)

Julie Ingwersen

[ワウサウ(米ウィスコンシン州) 23日 ロイター] - 米中西部ウィスコンシン州中央部の冷涼な森林地帯は氷河期の鉱物が豊富に含まれた土壌が広がり、アジア向けに輸出される薬用植物「高麗人参」の栽培に最適な地域となっている。

高麗人参はスライスしてお茶にしたり粉末にしてカプセルに加工され、活力や免疫力向上の効果や、ストレスを軽減し記憶力を改善する効果があるとされる。収穫された人参の大半は乾燥されて中国へ輸出される。

米国産高麗人参のほぼ全量はウィスコンシン州マラソン郡で生産されている。生産者たちは、この地域の土壌と気候が独特の風味を持つ高品質の人参を生み出すと語る。これはちょうど、ワインが生産される「テロワール」に影響されるのと同じだ。ウィスコンシン州中央部は、西部カリフォルニア州の有名なワイン産地にちなんだ「米国高麗人参のナパバレー」として知られ、世界市場で高値が付く作物を生産している。

しかし現在、米中間の貿易摩擦、中国経済の低迷、そして安価なカナダ産高麗人参との厳しい競争がこのニッチな産業を圧迫している。中国税関総署のデータによると、米高麗人参産業は2024年、中国向けに高麗人参を1470万ドル輸出した。だが、30年の栽培経験があるハイル高麗人参農園のジョー・ハイル氏は「利益がもう出ない」と語った。労働力、肥料、その他の資材のコストが「非常に高騰しており、生き残れない状況」で、かつてウィスコンシン州に1400人いた生産者は現在70人未満に減っているという。

問題の一つは、カナダ産の安価な高麗人参がたくさんあることだという。中国税関総署のデータによると、中国は24年にカナダ産高麗人参を約3000トン輸入しており、平均価格が1キログラム当たり約15ドルだった。一方、米国産は213トンで、平均価格は約69ドル。

ウィスコンシン州産の高麗人参は主にカナダ・トロント南部のオンタリオ州の砂質土壌で育つカナダ産と品質が異なる。シュウ高麗人参農園のウィル・シュウ社長は「緯度が2度違う上に地質も味と風味に影響する」と説明した。

<好景気の時代>

ウィスコンシン州の高麗人参輸出は1990年代から2000年代にかけて、中国の経済成長が大きく伸びるとともに急拡大した。中国は01年に世界貿易機関(WTO)に加盟し輸入関税を緩和した。

しかし高麗人参の貿易取引の始まりは何世紀も前にさかのぼる。

1700年代初頭、アジア産の野生高麗人参が乱獲のため供給不足となった際に、フランス人宣教師たちがケベックや北米東部で先住民族に知られていた類似の高麗人参種を発見した。

独立したばかりの米国から中国へ向けてニューヨークを出航した最初の商船は1784年、毛皮と30トンの高麗人参を積んでいた。

ウィル・シュウ氏の父、ポール・シュウ氏は1974年に農園と園芸事業を始めた。ウィル氏は現在、ウィスコンシン州ワウサウを拠点として事業を経営し、中国語と英語で電話対応しウェブサイトも両言語で利用できる。

<米中対立の収束待ち>

今回の貿易摩擦のために、ウィスコンシン州産高麗人参の需要は停滞。ハイル氏やシュウ氏のような生産者は乾燥させた高麗人参の根を倉庫に保管し、危機の収束を待つ構えだ。

シュウ高麗人参農園を8月に訪問した時は、倉庫の中央に乾燥させた高麗人参の入った段ボール箱数百個が木製パレットの上に6段積みで並べられていた。一部はクリスマスや旧正月のために国内顧客に出荷されるが、残りは中国の顧客から需要の復活を待っている。

「出荷に時間がこれまでよりも長くかかり、販売も時間がこれまでよりも長くかかる。作物を現金に換えるまでに時間が一層長くかかるようになっている」とシュウ氏は語った。

ロイター
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