ニュース速報
ワールド

焦点:英首相、対中関係改善に弱腰批判 スパイ起訴断念が波紋

2025年10月17日(金)18時26分

スターマー英首相は中国との関係改善を試みているが、国内では国家安全保障上の脅威を見過ごしているとの批判を受ける一方、切望する経済的利益もほとんど確保できていない。10月15日、ロンドンで撮影。英下院提供写真(2025年 ロイター)

Andrew MacAskill Kate Holton Michael Holden

[ロンドン 16日 ロイター] - スターマー英首相は中国との関係改善を試みているが、国内では国家安全保障上の脅威を見過ごしているとの批判を受ける一方、切望する経済的利益もほとんど確保できていない。

検察は先週、中国のために議会でスパイ活動を行ったとして起訴された英国人男性2人の起訴を断念せざるを得なかったと発表した。中国が国家安全保障上の脅威であるとの見解を示すことを、英政府が拒否したためだ。

スターマー政権は、中国をなだめるために閣僚らが事件に干渉したことを否定。しかし政敵からは、安全保障や人権問題よりも中国との関係改善を優先したのは今回で6回目だとの声が上がる。

政敵はまた、(1)政府が対中関係について待望の監査結果の公表を拒否した、(2)「外国影響力登録制度」に基づき、より厳しい規制の対象となる国のリストから中国が除外された――点を指摘している。

<対中関係改善を最優先>

スターマー氏率いる労働党政権は、インフラ更新と経済成長という選挙公約を実現するため外国投資を追求しており、そうした中で対中関係改善を最優先課題に据えてきた。

しかし安全保障や貿易の専門家らは、世界的な関税戦争が繰り広げられている中、また中国が脅威に直面する局面で経済的強制力を行使してきた過去の経緯を踏まえると、対中融和優先は危険な道だと警告している。

これに対してジャービス安全保障担当閣外相は今週、議会で「中国が英国の国家安全保障に一連の脅威をもたらしていることは十分に認識しているが、中国が英国にチャンスをもたらしているという事実も直視しなければならない」と述べた。

ただ、これまでのところ、経済的利益は限られている。中国は英国にとって第5位の貿易相手国で、貿易総額の5.5%を占める。しかし英国からの対中輸出は今年3月までの1年間に12%減少し、昨年7月の労働党政権発足以来、主要貿易相手国20カ国の中で2番目に急激な落ち込みを示した。対英直接投資総額に占める中国の割合はわずか0.2%だ。

<対中関係は慎重に>

英国家安全保障担当の元高官はロイターに対し、英政府が国家安全保障上の利益を守るため中国への強硬姿勢を採りつつ、貿易・投資関係を維持することは可能だと述べた。

しかし元高官は、中国が核心的問題とみなす台湾、香港、南シナ海などに英国が干渉していると感じた場合には、問題が生じると語った。

元政府貿易顧問で現在はコンサルティング会社SECニューゲートに所属するアリー・レニソン氏は、中国がメッセージを送りたい場合には英国の再生可能エネルギーインフラへの投資を縮小する可能性があると指摘。「中国は英国が望むような縦割りの対応はしない」と語った。

<政治的リスク>

スパイの起訴を断念したニュースは英国で約2週間も新聞の1面を飾った。

スターマー氏は現在、国家安全保障に関して弱腰だと見なされるリスクに直面している。ある労働党議員はロイターに対し、今回の失態が政府に「不誠実」という印象をもたらしかねないとこぼした。

中国はロンドンに欧州最大の大使館を建設する計画を立てており、これを承認するかどうかという政治的に敏感な決定にも、スパイ起訴断念の一件は影を落とすだろう。

前出の英国家安全保障担当の元高官は、大使館建設の申請を拒否するのは手遅れだと考えている。

<関係を改善しない余裕はない>

対中関係を巡るこうした緊張にもかわらず、多くの貿易専門家、さらには元安全保障当局者でさえ、経済が停滞する英国は中国と協力する道を探る必要があると言う。

労働党政権発足以降、少なくとも4人の閣僚が中国を訪問しており、スターマー氏も来年訪中を予定している。

別の安全保障当局者は「ブレグジット(英国の欧州連合=EU離脱)後の英国にとって、世界第2位の経済大国と経済関係を持たない余裕はあるのか。答えはノーだ」と言い切った。

英財界と密接な関係を持つ元英外交官も同意見で、中国はすでに多くの将来技術において欧米を追い抜いていると指摘。「我々が追い付きたいなら、中国に投資と技術共有をしてもらう必要がある」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀ピル氏、利下げは緩やかなペースで 物価圧力を

ワールド

米ロ首脳会談、2週間以内に実現も 多くの調整必要=

ワールド

中国、軍幹部2人の党籍剥奪 重大な規律違反

ワールド

米上院議員、トランプ政権のベネズエラ船攻撃を批判 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中