ニュース速報
ワールド

アングル:米国目指すインド人学生に試練、トランプ政権のビザ変更で留学計画白紙に

2025年09月27日(土)08時18分

 パリディ・ウパダヤさん(18)は米国でコンピューターサイエンスを学ぶため、奨学金を得て渡米準備をしてきた。写真は米印両国の国旗と、ビザ申請書類のイメージ。22日撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

Chandini Monnappa Rishika Sadam Manoj Kumar

[ベンガルール/ハイデラバード/ニューデリー 24日 ロイター] - パリディ・ウパダヤさん(18)は米国でコンピューターサイエンスを学ぶため、奨学金を得て渡米準備をしてきた。ところがその矢先、トランプ米大統領がITなどの専門技能を持つ外国人労働者向けの入国査証(ビザ)「H-1B」の発給制限につながる措置を発表したことで、インド北部ラクナウで暮らす家族はウパダヤさんの米国留学計画を取りやめた。

ウパダヤさんの父親は「トランプ氏の絶え間ない移民への攻撃のせいで、われわれは娘に別の留学先を考えざるを得なくなっている」と語る。

インドでウパダヤさんを含め何千人もの若者が見てきた、米国で世界屈指の水準の教育を受け、魅力的な職に就き、より良い生活を送ろうという夢は、トランプ氏のビザ規制やその他の予測不能な政策によって台無しになっている。

H-1Bビザは過去数十年にわたり、新たな生活への扉を開いてくれる存在だった。インドや中国などから米国にやってくる若いエンジニアや科学者は何年か勉強した後、高給が約束された仕事を獲得し、場合によっては永住権も手に入れることができる。

しかし先週、トランプ氏はH-1Bビザの新規申請について雇用主が支払う手数料を従来の約2000-5000ドルから一気に10万ドルに引き上げると表明した。

ラクナウから1万3000キロ余り離れた米南部テキサス州ダラスでコンピューターサイエンスの修士号取得を目指す1人のインド人学生の目に映ったのは、8万ドルの借金と不確かな未来だった。

「今はただ、大学を卒業してインターンシップを見つけ、借金を返済することだけを目指している」と同学生は、移民当局の標的になることを恐れ、匿名で取材に応じた。

「いずれはカナダか欧州、あるいは私たちを求めてくれるならどこにでも行くつもりだ」

<成功への扉が閉じるのか>

H-1Bビザは米国が必要とする人材を確実に供給してくれるとの意見がある一方、トランプ氏はこの制度が賃金を抑制し、同等条件を備えた米国人の就職機会を失わせていると反論している。

ただ、マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)、IBMのアービンド・クリシュナCEO、グーグル親会社アルファベットのスンダー・ピチャイCEOら、著名なインド系の米大手IT企業経営者もH-1Bビザを利用しており、最初に米国を訪れた際は学生だった。

米政府の各国別のH-1Bビザ発給状況に関するデータを見ると、昨年はインド人の取得件数が全体の71%と、第2位の中国人の11.7%を大きく引き離して圧倒的な高さだ。

ビザの有効期限は通常3年で、追加で3年間更新することができ、米国のテック企業は同制度を通じて数百万人に上る優秀な外国人労働者を採用し、人材不足の穴埋めを可能にしていた。

米国の大学を卒業した外国人留学生はまず、専攻分野に関連する職業で合法的に働くことができる「オプショナル・プラクティカル・トレーニング(OPT)」と呼ばれる制度を利用して経験を積み、H-1Bビザ取得につなげる。同ビザは長期雇用や、多くの場合、憧れの永住権証明書(グリーンカード)を確保する重要な鍵となる。

ロイターが取材した教育コンサルタントや大学教授、学生らによると、インドの若者たちは今、米国に留学してキャリアを積む計画を見直し、移民により友好的な国・地域へと行き先を変更しようとしている。

IDPエデュケーションのピユシュ・クマール氏は「多くの学生やその親は今『様子見』モードに入り、英国やオーストラリア、アイルランド、ニュージーランドなどを選択肢として検討中だ」と述べた。

2023年のインド政府のデータによると、インドから外国に留学する130万人のうち、米国の受け入れ数は46万5000人と最も多く、カナダ、英国、オーストラリアがこれに続いた。

ウニ・プラネット・オーバーシーズ・エデュケーションのマネージングパートナー、パトロラ・バラス・レディー氏は「学生らはあらかじめプランBを求めてくる。投資効果を重視しているからだ」と明かした。

一方、留学コンサルティングを手がけるIMFSのKP・シン氏は「トランプ氏のH-1Bビザ手数料増額命令は、実現に向けてさまざまな法的ハードルに直面する可能性があり、卒業する頃には事情が変わってもおかしくない、と学生に助言している」と明かした。

<人材誘致の機会に>

中国や韓国、英国、ドイツなどは、この機会を利用し、外国人人材を積極的に誘致しようとしている。

ドイツのフィリップ・アッカーマン駐インド大使は今週、X(旧ツイッター)への投稿でドイツの移民政策は「ドイツ車のように信頼性があり現代的で予測可能」だとアピールした。

米中西部ミネソタ大でコンピューターサイエンスを専攻するインド人学生の1人は、今後の学び場所として米国よりもドイツを考えており、安定した移民政策と技能労働者に対する強い需要、費用が手頃で質の高い教育を受けられることを理由に挙げた。その上で「私のような農村出身者が米国にとどまり続ける余裕はなさそうだ」と語った。

中国も新たなインセンティブを導入し、世界中から人材を熱心に呼び込んでいる。

その一環として中国政府は、研究職や仕事の提示を受けていなくても国内での留学や労働が可能な新区分のビザを設定。トランプ氏がH-1Bビザ手数料増額を発表したの19日、済南や南京といった都市で外国人を対象とする大規模な就職フェアが開催された。

米ジョージ・ワシントン大エリオット国際関係大学院のディーパ・オラパリー研究教授は「(H-1Bビザの制度変更は)結局、米国を不利な立場に追いやることになる」と苦言を呈した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:米国目指すインド人学生に試練、トランプ政

ワールド

国連の対イラン制裁復活へ、安保理で中ロの延期案否決

ワールド

トランプ氏、ウクライナへの長距離兵器供与・使用制限

ビジネス

米国株式市場=反発、PCEがほぼ予想通り 週足では
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 3
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国はどこ?
  • 4
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 5
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 6
    砂糖はなぜ「コカイン」なのか?...エネルギー効率と…
  • 7
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    「不気味すぎる...」メキシコの海で「最恐の捕食者」…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがたどり着ける「究極の筋トレ」とは?
  • 4
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 5
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 6
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 7
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 8
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 9
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中