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アングル:米保守活動家の銃撃事件、トランプ氏が情報発信の最前線に 「ニュース支配」鮮明

2025年09月16日(火)15時52分

 米保守活動家チャーリー・カーク氏の銃撃後、トランプ大統領(写真左)が事実上同氏の広報担当者として前面に立っている。7月15日、ワシントンで撮影(2025年 ロイター/Jonathan Ernst)

Trevor Hunnicutt Steve Holland

[ワシントン 16日 ロイター] - 米保守活動家チャーリー・カーク氏の銃撃後、トランプ大統領が事実上同氏の広報担当者として前面に立っている。異例のやり方だ。

最初にカーク氏の死亡を公表し、容疑者の拘束も真っ先に発表したのはトランプ氏だった。葬儀の日程を示し、自ら参列すると明らかにした。そして容疑者が拘束される前から、証拠を示さないまま「急進左派」の犯行だと断じ、多くの支持者がこの主張を繰り返した。右派の怒りが渦巻く中、報復を求める声が広がった。

カーク氏は10日、講演で訪れていたユタ州のユタバレー大学のキャンパスで銃撃されて死亡した。同氏は影響力のあるポッドキャスターで著書も6冊を数えるが、対立を引き起こす人物でもあった。後には妻や無数の支持者らが残された。

銃撃後、カーク氏の凄惨な死を巡る情報の公表に中心的な役割を担ったのがトランプ氏だった。本来なら法執行当局が伝えるべき情報を自ら発信。慎重だった歴代大統領とは対照的ではあったが、慣例に挑み、内外の争点のただ中に身を置き、直接のコミュニケーションを好む彼らしいやり方だった。

「トランプ大統領は細部に目を配る人物だ」と、トランプ政権1期目の上級顧問メルセデス・シュラップ氏は語る。「ローズガーデン・クラブの改修でも、こんな痛ましい惨事でも、まずは自分が最初に知らせたいのだ」

トランプは半旗掲揚を命じ、カーク氏に大統領自由勲章を授与すると表明。バンス副大統領が副大統領専用機でカーク氏の棺を出身州に送るのを見届けた。いずれも、公職経験も軍歴もない人物を政府が顕彰するやり方としてはかなり異例だ。

カーク氏は保守系学生団体「ターニング・ポイントUSA」の共同創設者で会長をつとめた。トランプ氏は個人的にも政治的にも関係を深め、若年層への訴求で助けられたと評価する。

「チャーリーは若者を惹きつける魔法を持っていた」と、トランプ氏は12日のフォックスニュース「フォックス・アンド・フレンズ」で語った。10代の三男バロンさんが、このカリスマ性あふれる31歳の活動家に圧倒されていたと振り返った。

一方でカーク氏は、強い党派性で知られていた。闘争的で対立を恐れず、反LGBTQ、反移民的な言動で、オンラインでも公の場でも衝突が絶えなかった。中絶、公民権、銃規制に関する極右的な主張は、彼の発言の矛先となった団体から激しい反発を招いた。

トランプ氏は支持者に非暴力を呼びかける一方で、1970年代以来で最も政治的暴力が頻発する中、国をどう一つにまとめるのかという記者の質問には答えなかった。自身も昨年、2度の暗殺未遂の標的となっている。

トランプ氏は右派の過激化については過小評価する一方で、11日には、記者団に「やつらを徹底的に打ち負かすしかない」と述べ、「急進左派」への政治的報復を求める支持者の声をあおった。

捜査当局は12日、カーク氏を銃撃した疑いでユタ州の22歳、タイラー・ロビンソン容疑者を拘束した。動機は依然不明で、捜査当局は4発の薬きょうに刻まれたメッセージを精査している。専門家によれば、左派、右派いずれの団体も想起させ得る内容だという。

<ニュースの語り口を決める>

シュラップ氏は、元リアリティ番組のホストであるトランプ氏が、即興の記者応対と、自身の強力な発信力を楽しむようになっていると指摘する。二期目のコミュニケーションは、より好戦的になったとも述べる。

「とにかく、ニュースを支配する。トランプ氏以上にこれができる人物はいない。戦略は奏功している」

シュラップ氏は、「政権は、前例がないほどメディアに対して攻めの姿勢をとっている。一期目は叩かれ続けたが、今は大統領がニュースの語り口を決めている」と述べた。

銃撃以降、トランプ氏側近による会見は開かれていない。側近は「大統領の先回りはしない」として、政策や見解の発表を大統領に委ねている。

思いつくままの発言には、法執行の過程に影響を与えたり、後に事実関係が明らかになって食い違いが生じたりするリスクが伴う。

「大統領自身がこうしたニュース速報を出すのは普通ではない」と、パーデュー大学ノースウエスト校の政治学者、ユー・オウヤン氏は語る。「自らの言葉の影響力を心得ているからだ」

エリザベス・ウォーレン上院議員らは、トランプ氏は、リベラル派や民主党系の人物も政治的暴力の標的になってきた事実を無視していると批判する。論者の中には、カーク氏の件での大統領の連日の発信と、今年初めのミネソタ州のメリッサ・ホートマン民主党州議会議員の暗殺事件への控えめな反応を比べる声もある。

トランプは10日のビデオ声明で、「意見の異なる者を悪魔化することの悲劇的帰結が、暴力と殺人だ」と語った。ただし、非難の矛先は左派に限られた。

ウースター大学で大統領の情報発信を研究するコミュニケーション学の教授、デニス・ボストドルフ氏は、「トランプ氏は慰めようとする姿勢もあるものの、誰がやったのかが分かる前から特定の集団を責め立てるなど、彼のレトリックは事態を一段とエスカレートさせている」と語る。

ホワイトハウスはこの件についてコメント要請に応じていない。トランプ氏のスタッフは大統領がオープンであることを誇示し、支持者は、トランプ氏の慣例破りの率直な物言いを歓迎している。

元トランプ陣営の顧問、バリー・ベネット氏は、「レーガン大統領は雄弁な演説者だった。だがトランプ氏は、ニュースの(伝わる)速度を理解しており、話を広める術を知っている」と述べた。

ロイター
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