アングル:日英伊の次期戦闘機、35年配備に遅延も 日本の防衛に空白

5月30日、 日英伊が共同開発する次期戦闘機の配備開始が、目標の2035年に間に合わないとの懸念が日本の関係者の間で浮上している。写真は21日、幕張メッセで開かれた国際防衛・安全保障展示会に展示された次期戦闘機のコンセプトモデル(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Nobuhiro Kubo Tim Kelly
[東京 30日 ロイター] - 日英伊が共同開発する次期戦闘機の配備開始が、目標の2035年に間に合わないとの懸念が日本の関係者の間で浮上している。複数の関係者によると、もともと逼迫したスケジュールで計画が始まった上、意思決定や調整に時間がかかる多国間開発特有の要因が影響しているという。
35年から退役が始まるF2の後継機と位置付ける日本は、航空戦力に空白を生まないようF2の延命など対応を検討しておく必要があると関係者2人は話す。トランプ米政権との間で対米赤字削減が重要性を増す中、米製のステルス戦闘機F35の追加購入が選択肢になると話す関係者もいる。
<3カ国で異なる運用>
日英伊の3カ国は22年に次期戦闘機の共同開発プログラムを立ち上げ、24年に政府間の連携機関を英国に設立した。実際の開発と製造を手掛ける民間企業の共同事業体も今年設置する。地上試験用の機体開発を経て、30年ごろに試作機を初飛行、その後に試作機を複数製造した上で35年の初号機配備を目指している。
関係者の1人によると、試作機の初飛行に間に合うよう地上試験用の機体を開発するには、戦闘機の基本的な構造や機能、性能などに3カ国が一致している必要があるが、まだその段階に至っていないという。
「各国それぞれ想定する運用が異なり、調整に時間がかかっている」と同関係者は説明する。
関係者2人によると、次期戦闘機を必要とする時期が英伊2カ国と日本の間に差があることも影響している。日本のF2は35年から退役していく一方、英伊のユーロファイタータイフーンは40年代前半から退役が始まる。
日本の防衛装備庁はロイターの取材に対し「2035年の初号機配備というスケジュールに変わりない」と回答。「3カ国で機体の構想設計を進めており、形状や重量、それとエンジン推力とのトレードオフの検討などをしている」とした。
英国防省の報道官は「英国、イタリア、日本は2035年までに次世代戦闘機を配備することに注力しており、着実に進展している」と述べた。イタリアの国防省にもコメントを求めたが、現時点で回答を得られていない。
<2040年代との見方も>
F2は米国のF16をベースに日米で共同開発したステルス性のない戦闘機。もともと日本は後継機の国産開発を模索していたが、2010年代後半に国際共同開発へ舵を切った。関係者の1人によると、当時すでに35年の配備開始は難しいとの見方が出ており、90機超保有するF2の延命も検討すべきとの意見があったという。
「単独開発を検討していたころから35年という目標はタイトだったが、共同開発になって事業の開始がさらに遅れた。初号機の配備は2040年代になる可能性もある」と同関係者は語る。
同関係者らによると、配備が遅れた場合に備えて日本が取り得る対応策はF2を延命するか、米国からF35を追加で取得するか。「F35の追加購入はトランプ大統領へのアピールになる」と関係者の1人は言う。
日本は米国との関税交渉で、日本からの投資がいかに米経済の成長と雇用創出に貢献しているかをかねてから訴えてきた。米国製の武器購入はその1つで、第1次トランプ政権時に当時の安倍晋三首相はF35を105機追加購入することを決めた。日本は合計147機を調達する計画で、米国以外で最大のF35保有国となる。
4回目の関税交渉のため訪米を控えた赤沢亮正経済再生相は29日、「防衛装備品購入が入れば米側の貿易黒字が積み上がるという意味では視野に入り得る」と記者団に語った。関税と安全保障は切り離すとしてきた従来の姿勢が変化しつつあることを示唆した。
しかし、複数の関係者はF35について、遅延している機体の納入が先だと指摘する。発注した147機のうち、日本はこれまで標準タイプのA型を43機受領しているが、前年度に配備を予定していたB型6機はまだ届いていない。
防衛装備庁はロイターの取材に「F35を追加購入するという話は把握していない」とした。
(久保信博、Tim Kelly、Nathan Layne 取材協力:Paul Sandle、Angelo Amante 編集:石黒里絵)