アングル:Z世代の政治意識に性差、各国で深まる左右分極化

6月3日に行われる韓国大統領選では、混迷を極めた与党・保守政党に対して若年層の女性有権者が反発の声をあげるとみられている。写真は5月29日、ソウルの投票所で期日前投票をする女性(2025年 ロイターKim Hong-Ji)
Heejung Jung Mark Bendeich Thomas Escritt
[ソウル/ロンドン/ベルリン 29日 ロイター] - 6月3日に行われる韓国大統領選では、混迷を極めた与党・保守政党に対して若年層の女性有権者が反発の声をあげるとみられている。一方、同じ若者でも男性有権者の多くは彼女たちと歩調を合わせることはなさそうだ。
世界の民主主義国では、Z世代(1990年代後半─2000年代前半生まれ)を中心に性別による政治的分断が強まっている。若い男性は右派政党を支持し、若い女性は左派に傾く傾向がある。パンデミック前は、男女ともに進歩的な候補に投票する傾向が強かったが、最近の選挙では様相が一変している。
北米、欧州、アジアで実施された最近の選挙では、こうした傾向が定着しつつあるか、あるいは加速していることが示された。怒りや不満を抱える20代の男性たちが、右派へと流れている。
韓国で今回初めて投票権を得たイ・ジョンミンさん(20代男性)は、保守系少数政党「改革新党」の李俊錫氏に投票すると語る。同候補は「女性家族部(省)」の廃止を公約に掲げており、特に兵役義務を負うことに不満を抱く男性の共感を得ている。
「若い男性として、韓国で生きるうえで最も不公平な現実の一つだと思う。21─22歳という一番活動的な時期に、女性とは違って18カ月の兵役に就かなければならず、社会のさまざまな活動に参加できない」とイさんは述べた。
韓国ギャラップが今月実施した世論調査によると、18─29歳の男性のうち約30%が改革新党を支持すると答えたのに対し、同年齢の女性で同党を支持するのはわずか3%にとどまった。全体では、男性の過半数が右派政党を支持している一方、女性の約半数が革新系野党「共に民主党」の候補を支持すると答えている。この性別による差は年齢が上がるにつれて縮小する。
ロンドン大学キングス・カレッジの政治経済学者、イ・スヒョン氏は、多くの韓国の若年男性が「良い職に就き、結婚し、家を買って家庭を持つ」という社会の期待に応えられない現状に苦しんでいると指摘する。その原因としてフェミニズムを非難する声も多く、「移民がほとんどいない韓国では、女性が便利なスケープゴートとなっている」と分析する。
<怒れる若い男性たち>
韓国に限らず、他の民主主義国でもZ世代の男性は、特にパンデミック以降、自らの優位性が損なわれていると感じている。20代においては、いくつかの国では男女間の賃金格差が逆転し、若い女性のほうが高収入を得ている。
欧州連合(EU)の統計によれば、フランスでは2024年の国民議会(下院)選挙で、18─34歳の男性が極右政党、国民連合(RN)に投票した割合は、女性を大きく上回った。
英国でも、16─24歳の男性の方が女性より保守派支持が多い。また、就学も就業もしていない若年層は男性の方が多いという統計がある。
西側諸国では、若い男性が移民や多様性推進政策を「職の奪い合いの元凶」とみなす傾向が強い。
2月のドイツ連邦議会(下院)選挙では、反移民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が過去最高となる得票率20.8%を獲得した。その原動力のひとつが若年男性による支持だった。もっとも、同党の党首は女性である。
18─24歳の男性のうち、27%がAfDに投票したのに対し、同世代の女性は35%が極左の左派党(リンケ)に投票している。
ベルリン在住の女性モリー・リンチさん(18)は、気候変動や経済格差への政策を理由にリンケを支持したと述べた。
「多くの若い男性が右派プロパガンダに取り込まれている。彼らは『自分たちが力を失っている』と感じているが、それは元々平等でなかった女性に対する力を失っているだけだと思う」
こうした性別による分断は、Z世代に限らず、ミレニアル世代(30─40代)にも見られる。カナダでは先月、35─54歳の男性の半数が野党の保守派に投票した。選挙は、トランプ米大統領による関税政策への世論の反発を追い風に、女性有権者の支持を得た与党・自由党が逆転勝利した。
世論調査会社イプソスの公共部門責任者ブリッカー氏は、「人生経験を積んできた男性が『自分はうまくいっていない、変化が必要だ』と感じている」と話す。ナノス・リサーチの創設者ニック・ナノス氏も同様の見方を示し、ソーシャルメディアが民主主義における「怒れる若者症候群」を加速させていると指摘した。特に、ブルーカラーの職が失われた地域でその傾向が顕著だという。
<終わらぬ戦い>
24年の米大統領選でトランプ氏が掲げた製造業の復活や多様性政策批判は、白人およびヒスパニック系の若い男性の共感を呼んだが、若い女性には敬遠され、米国内のジェンダー間の政治的分断を深める結果となった。
18─29歳の男性のおよそ半数がトランプ氏に投票した一方、61%の若い女性が対立候補のカマラ・ハリス氏を支持した。黒人の若者は男女問わず圧倒的にハリス氏支持だった。
一方、今月選挙が行われたオーストラリアでは、Z世代における性別による投票傾向の違いはあまり見られなかった。オーストラリア国立大学の政治学者インティファー・チャウドリー氏は、「投票義務制度が極端な思想の広がりを抑制している可能性がある」と述べた。
では、このZ世代の分断はどこへ向かうのか。
専門家は、政府が住宅価格の高騰や不安定な雇用といった根本的な課題に取り組まない限り、分断は今後も続くとみる。若年男性の健康問題、特に自殺率の高さも政策課題の一つに挙げられた。
イ・スヒョン氏は、分断が、税制や福祉制度といった包括的な改革に向けた社会的合意の形成を難しくする可能性があると述べた。
「将来を担う世代が性別で極端に分断され、お互いに向き合って社会的合意形成を図ることを拒むようになれば、大きな課題に取り組むことは極めて難しくなる」