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ロシアのロスアトム、震災でもミャンマー原子力発電所建設計画に変更なし

2025年04月23日(水)14時46分

内戦により荒廃しているミャンマーでは、3月28日の大地震で3700人以上が犠牲となった。この国で原子力発電所の建設を予定しているロシア国営原子力企業ロスアトムはロイターに対し、計画を継続すると明らかにした。写真はロシアのプーチン大統領(写真右)に本を贈るミャンマー軍事政権トップのミンアウンフライン総司令官(左)。3月4日、モスクワで撮影された代表撮影(2025年 ロイター)

Panu Wongcha-um

[バンコク 22日 ロイター] - 内戦により荒廃しているミャンマーでは、3月28日の大地震で3700人以上が犠牲となった。この国で原子力発電所の建設を予定しているロシア国営原子力企業ロスアトムはロイターに対し、計画を継続すると明らかにした。

ミャンマー軍事政権トップのミンアウンフライン総司令官とロシアのプーチン大統領は3月、小規模な原発の建設に関する合意に署名した。マグニチュード7.7の地震で被災地が壊滅した3週間前のことだった。この地震は同国において、数十年ぶり最悪の自然災害となった。

この合意は、ミャンマーに小型モジュール炉(SMR)を建設するための協力に関するものだ。初期段階の発電容量は110メガワット(MW)で、ロシアの国営原子力企業ロスアトムが製造した55MWの原子炉2基で構成される。

同社の広報部は建設計画について、電子メールで「3月の地震による影響はない」と回答。「当社は厳格な耐震要件を含む、最も厳しい国際安全性および信頼性基準を順守している」と述べた。

重要インフラが機能不全に陥った震災後のミャンマーで、同社が引き続き原子力計画を進める意向であることはこれまで報道されていなかった。

ロスアトムはミャンマーの原発で、当初は原子力砕氷船での使用を目的として製造したRITM-200N型の小型モジュール炉を稼働させる予定だ。建設スケジュールや所在地の詳細については一切明らかにしていない。

ミャンマー軍事政権の報道官はロイターからのコメント要請に応じなかった。

同国では、ノーベル賞受賞者のアウン・サン・スー・チー氏率いる政権を転覆させた2021年2月の軍事クーデターをきっかけに内戦が拡大している。

クーデター以前から存在する民族武装勢力に、新たに結成された勢力も加わり、国土の大部分で支配力を失った軍事政権は、ロシアなど数少ない同盟国への依存を強めている。

内戦は中国との国境からベンガル湾沿岸まで広がっており、350万人以上が避難を強いられ、農業中心の国内経済は崩壊寸前となった。

ミャンマーは現在、ロシアが支援する原発建設計画の資金調達方法を探している。ロスアトムによると「自己資金と借入金の両方が必要になる可能性がある」という。ロシアはバングラデシュやエジプトなどで、低金利の融資を通じて従来型原発プロジェクトに資金を提供してきた。 

隣国タイの当局はミャンマーの原発計画を注視している。関係筋によると、建設される可能性があるのは、要塞化された首都ネピドーだという。この都市も地震で大きな被害を受けた。

タイ当局によるとほかの候補地は中央バゴー地域と南部のダウェイ特別経済区。軍事政権とロシアはそこで港湾と石油精製所を建設する計画を発表している。

ミャンマーは、地震を引き起こす2つのプレートが交わる場所に位置しており、世界で最も地震活動が活発な国の1つだ。

<建設資金と人材>

東南アジアで初めて原発が建設されたのは1984年、フィリピンのバターン原発(621MW)で、23億ドルの費用をかけて完成した。だが2年後、旧ソ連でチョルノービリ(チェルノブイリ)原発の爆発事故が起きたことを受けて運転が見送られた。

フィリピンなどの東南アジア諸国はそれ以来、原子力発電を巡る努力を続けてきたが、ほとんど進展していない。ただベトナムは、福島第1原発事故後、予算の制約もあり2016年に建設計画を中止していたが、24年にプロジェクトを再開している。

ロスアトムによれば、ロシアとミャンマーは長年この分野で協力しており、2019年からミャンマーの学生が政府の支援を受けてロシアの大学で原子力エネルギーや関連分野について学んでいる。

国際原子力機関(IAEA)によると、従来の大型原子力発電所と違い、小規模原発ではSMRの部品は一体型ユニットとして組み立て、設置場所まで輸送できる。

バンコクのチュラロンコーン大学原子力工学部の講師、ドゥニャポン・ウォンサワエン氏は「技術的には何の支障もないと考えている」と述べた上で「むしろミャンマー政府の継続的な取り組みが主な課題になるだろう」との見方を示した。

非政府組織(NGO)「国際危機グループ」でミャンマー担当の上級アドバイザーを務めるリチャード・ホーシー氏は、軍事政権は外貨獲得のため、国内での安価な発電に利用できるはずの天然ガスを優先して輸出に回していると指摘。資金難の政権にとって原発建設計画は経済的に意味をなさないとみている。

「原子力発電は非常に高額であり、ミャンマーにはそれを賄う余裕は到底ない」とホーシー氏は語った。

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