ニュース速報
ワールド

アングル:ガザで出産する女性たち、病院は不足 攻撃逃れ漂流

2024年07月14日(日)08時16分

 7月9日、5月初め、パレスチナ自治区ラファの薄いテントの中で、バールさん(33)は予定日より早く陣痛が始まったのを感じた。写真は4月、ガザ南部ラファのイスラエル軍の攻撃で破壊された建物の側を歩く、乳児を抱いた女性(2024年 ロイター/Mohammed Salem)

Menna Farouk

[ベイルート 9日 トムソン・ロイター財団] - 5月初め、パレスチナ自治区ラファの薄いテントの中で、バールさん(33)は予定日より早く陣痛が始まったのを感じた。自動車もないのに、がれきだらけの道をどうやって病院まで行けばよいのか――。

バールさんはなんとかロバが引く荷車を見つけ、陣痛が強まる中でガザ南部のでこぼこ道を進んだ。

アル・ヘラル・アル・エミラティ産院に到着すると3時間待って診察を受け、手術室に運ばれて帝王切開で娘を出産するまで、さらに3時間かかった。

しかしその後、バールさんは血栓を発症。入院患者用のベッドがないためテントに戻り、治療のために病院を往復することは諦めた。

出産2日後にイスラエル軍はラファを攻撃し、バールさんは仮住まいから逃げ出さざるを得なかった。戦争のために逃げるのはこれで4度目だ。

「戦争が始まってからというもの、常に生き延びるために闘っている。子どもを無事にこの世に送り出すという、最も基本的な人権のためにさえも」。バールさんは5月下旬にハンユニスからトムソン・ロイター財団の電話インタビューに答えた。

「体の痛みだけではなく、赤ちゃんは大丈夫か、私は大丈夫かと、常に不安にさいなまれていた」

パレスチナ保健省によれば、イスラム組織ハマスとイスラエルの戦争が始まって以来の9カ月間に、何千人もの女性がガザ地区で出産した。

ハマスが10月7日にイスラエルを攻撃して以来、ガザに住む230万人の半数以上が攻撃を逃れてラファに押し寄せた。

負傷者数は8万7000人を超え、まだ機能している数少ない病院は対応に苦慮している。

世界保健機関(WHO)は5月、ガザにある36の病院と、基本的な医療施設であるプライマリー・ヘルスケア・センターのうち、部分的にでも機能し続けているのは約3分の1にすぎないと発表した。

イスラエル側は、ハマスが病院を軍事目的に使用していると主張して病院への攻撃を正当化しているが、病院スタッフもハマスもこの主張を否定している。

バールさんは「その場しのぎのテントでは暑さや悪天候をほとんどしのげず、ましてや絶え間なく胸を締め付ける恐怖からは守られない。子供を育てる場所でもなければ、産後の体を回復させる場所でもない」と嘆く。「私の体は出産時からほとんど回復していないが、今は娘の命を守るために闘わなければならない」

<地獄に生まれる>

国連児童基金(ユニセフ)によると、ガザの母親たちは、産前、出産時、産後に適切な医療、栄養、保護を受ける上で「想像を絶する困難」に直面している。

ユニセフの広報担当、テス・イングラム氏は1月の記者会見で「戦争のトラウマは新生児にも直接影響を及ぼし、栄養不足、発育上の問題、その他健康上の問題の発生率が高くなる」と述べた。

「母親になるのは本来祝福されるべきことだが、ガザでは地獄に産み落とされるもう一人の子どもなのだ」とイングラム氏は言う。

国境なき医師団のガザにおける医療活動の責任者であるオーレリー・ゴダール氏は、多くの女性が正式な医療システムの外で出産することを余儀なくされていると述べた。

「特にラファでは、多くの女性にとって交通手段や病院を利用することはまだ困難だ」という。

非営利組織アクションエイドによれば、食糧不足と絶え間ない危険、避難生活によるストレスのため、流産も増えている。

<空腹の赤ちゃん>

食料、電力、その他の必要物資が不足しているため、出産後も母親のトラウマは続く。

国連機関、地域機関、援助団体が主導する「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」の最新情報によると、ガザ地区全域で49万5000人以上が「壊滅的」レベルの食料不安に直面している。

医薬品も足りない。

アスマー・サラ・アブ・ジャバルさん(23)は「恐怖は絶えない。この手製の薬は効くのだろうか?かえって悪化させはしないか?本来母親が抱くべきような恐怖ではない」と話す。

彼女は生後4カ月の娘の風邪を治すため、インターネットで正式な医薬品に代わる治療法を探さざるを得なかった。「一夜にして医者になることはできず、必死でネットから答えを探そうとしている」

最近出産したソアド・アル・マスリさん(19)は、酷暑で耐え難くなったテントの中で、娘の世話をすることの難しさを語った。

「隣人から借りた冬服を着た娘は息苦しそうにしている」と話すマスリさんは、涼しい風を求めてよく娘を海辺まで連れて行く。「息苦しそうな娘の姿を見るたび、胸が苦しくなる」と心情を吐露した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 6
    女性の顔にできた「ニキビ」が実は......医師が「皮…
  • 7
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中