ニュース速報
ワールド

アングル:オピオイド危機改善せず、オレゴン州が非犯罪化を見直しへ

2024年02月27日(火)09時09分

 米オレゴン州ポートランドの繁華街では、誰かが商店や流行最先端のレストランの前、ホテル付近、歩道、曲がり角、ベンチで身を屈めているのは見慣れた光景だ。手にしているのは、アルミホイル片や吸引パイプにかざしたライターだ。写真は、治療を受けるためのホットラインの電話番号が書かれたカードを薬物中毒者に渡す警察官(2024年 ロイター/Deborah Bloom)

Deborah Bloom

[ポートランド(米オレゴン州) 18日 ロイター] - 米オレゴン州ポートランドの繁華街では、誰かが商店や流行最先端のレストランの前、ホテル付近、歩道、曲がり角、ベンチで身を屈めているのは見慣れた光景だ。手にしているのは、アルミホイル片や吸引パイプにかざしたライターだ。

頭から毛布をかぶったり、コンクリートバリアの陰にしゃがみ込んだりする人もいるが、隠そうともしない人もいる。

「ひと夏の間、堂々とオープンに振る舞っていた。もう疑心暗鬼になることもなければ、警官を恐れる必要もなかった」と語るのはジョン・フードさん(61)。州内で人口最大の都市ポートランドの路上で生活する薬物中毒者だ。

フードさんが取材に応じたのはポートランドの繁華街の街角だ。先ほどまで、ホームレス用シェルターとなった古いバス停の前で、フェンタニルとメタンフェタミンを吸引していた。

「タバコを吸うのと変わらない。吸っていても何も心配はなかった。ところが、また取り締まりが復活しつつある。非合法化したがっている」

オレゴン州は2020年の住民投票により、米国内でも最もリベラルな薬物対策法を成立させた。少量の違法薬物の所持を非犯罪化し、大麻関連税による数億ドルの税収を薬物中毒治療事業に回すこととなった。

「110条例」と呼ばれるこの州法は、薬物中毒を犯罪ではなく公衆衛生の問題として扱う革新的なアプローチとして話題となった。だが、国内各地の都市が薬物危機の解決策を模索する中で、この条例を疑問視する声が高まっている。2021年、コロナ禍による医療崩壊、メンタルヘルス問題の増加、命に関わる薬物が入手しやすくなる中で、薬物の過剰摂取(オーバードーズ)による全米の死者は史上初めて10万人を超えた。

「110条例」のもとでは、警察は薬物使用者を逮捕する代わりに、違反金100ドルの納付書を発行すると同時に、薬物治療ホットラインの電話番号リストのカードを渡す。薬物使用者がホットラインに電話をかければ支援を受けられ、納付義務は無効となる。単に召喚状を無視した場合でも、司法上の厄介な立場に陥ることはない。州のデータによれば、納付書を受け取った人のうち、ホットラインに電話したのはわずか4%だ。

ところが今、薬物中毒死の急増に伴う世論の圧力を受けて、オレゴン州議会では、今月始まった会期中のいずれかの時点で、薬物所持の再犯罪化に向けた採決を行う流れとなっている。州議会で多数派を占める民主党は、少量の薬物所持を軽犯罪として最大30日の禁固刑の対象とする一方で、治療を受けることで訴追を免れる機会を与えるとする法案を推進している。

<「また隠れて吸うだけ」>

「110条例」は、ポートランドのマルトノマ郡で74%の支持を集めるなど、有権者の58%から賛成票を得た。住民投票により成立した同法は2021年2月に施行された。だが、エマーソン・カレッジが8月に行った調査では、オレゴン州民の56%が同法の全面廃止を支持し、64%が同法の改正を支持していた。

州上院の民主党院内総務を務め、州議会薬物問題委員会の共同委員長でもあるケイト・リーバー氏は、「ポートランド市街で起きている状況は、誰の目から見ても歴然としている。オレゴン州メインストリートで起きている事態は容認しがたい」と語る。

民主党提出の法案では、薬物予防プログラムの他、薬物の売人に対する厳罰化、オピオイド中毒治療の利用拡大、回復・住居提供サービスの強化が盛り込まれている。

共和党の州議会議員は、民主党案は手ぬるいと指摘する。共和党側の法案では薬物所持を最長1年の禁固刑としているが、その代わりに治療と保護観察を選択肢として与えている。

州上院のティム・ノップ共和党院内総務は、「薬物乱用者を路上に放置せずにしっかりと治療へと向かわせるには、厳罰が必要だ」と語る。

ポートランドの人口は約63万人。コーヒーハウスや自転車専用道、書店、ビール醸造所が有名だが、以前からホームレス対策に悩まされてきた。コロナ禍に伴い、通常は活気にあふれ混雑するダウンタウンでは閉店が相次いだ。店舗の入口は板でふさがれ、歩道はキャンプ用テントとゴミで溢れた。オレゴン州でフェンタニル乱用問題が始まったのが2019年、その後は合成オピオイドの摂取が爆発的に増えた。

「110条例」の実現に注力してきたオレゴン州の啓発団体ヘルス・ジャスティス・リカバリー・アライアンスで代表を務めるテラ・ハースト氏は、州議会に提出された改正案に効果があるとは考えていない。

「実際には薬物乱用者の命を救い、治療を受けやすくすることにはつながらない。犯罪の前科になってしまい、住宅提供や雇用といった面での障壁が生じる」とハースト氏は語る。

オレゴン州の統計では、薬物過剰摂取による州内の死者は2019年から2020年にかけて30%以上増加し、2021年にはさらに44%増加した。ニューヨーク大学の研究では「110条例」と薬物過剰摂取の関連は見出せないとされているが、カナダ・トロント大学の研究では正反対の結論となっている。

全米規模で見ると、薬物の過剰摂取による死者は2020年の10万8825人から2023年の10万9000人以上へと0.7%増加した。米国疾病予防管理センターの最新の年次データでは、同じ期間にオレゴン州では11%増加しており、2桁の増加となった7州の1つだった。

オレゴン州の会計監査データによれば、「110条例」により得られた資金はなかなか回復プラグラムに配分されなかった。法の施行時には、州内の薬物治療インフラが不十分だった。2020年以降の連邦政府のデータでは、オレゴン州はこれまでの投資不足がたたり、薬物治療へのアクセスという点では国内最下位に甘んじている。

記事冒頭で紹介したフードさんは、「110条例」が撤廃ないし改正されたとしても、自分は薬物摂取を続けるだろうと考えている。ただし、これまでより控えめに、だ。

「また地下に潜って、隠れて吸う。以前のやり方に戻るだけだ。捕まらないよう祈るだけだ」とフードさんは言う。「いつかは自分も目が覚めて、助けを求めたくなるだろうが」

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英国、今夏のガス・電力供給は十分確保=ネットワーク

ワールド

原油高と供給混乱は当面継続の公算、緊急体制強化を=

ビジネス

欧州EV販売、3月は37%増で過去最高 ガソリン高

ビジネス

日銀利上げ巡る赤沢氏発言、片山財務相「手法は日銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ「EV撤退」が示す、日本が失った力の正体
  • 2
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 3
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目のやり場に困る」姿にネット騒然
  • 4
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 5
    トランプがまた暴走?「イラン海上封鎖」の勝算
  • 6
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 7
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 8
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 9
    BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音楽市場で…
  • 10
    「違法レベル...」ゼンデイヤの「完全に透けて見える…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中