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焦点:ロシアに残る西側企業、撤退のハードルは高まるばかり

3月にロシア事業の売却を完了したノルウェーの紙容器メーカー、エロパックのトーマス・コルメンディ最高経営責任者(CEO、写真)は、「未知の要素」が最大の問題だったと振り返った。5月27日撮影の提供写真(2023年 ロイター)
[1日 ロイター] - フィンランドのタイヤメーカー、ノキアンタイヤは昨年末、ロシア事業を4億ユーロ(約600億円)で売却する交渉が成立寸前だったが、そこでロシア政府がルールを変更した。
政府は昨年12月、ロシアから撤退する企業の事業売却価格を少なくとも評価額の半分に下げるよう求め、さらに売却資金の10%を請求。米財務省はこの請求金を「撤退税」と名付けている。
このためノキアンタイヤはロシアの石油・ガス大手タトネフチと合意していた事業売却価格を2億8600万ユーロまで引き下げ、ようやく今年3月になって外国投資の監視をしているロシア政府の委員会から承認を得られた。売却開始から実に9カ月後のことだ。
ロシア撤退までにノキアンタイヤが経験した長い道のりは、まだロシアから完全に手を引いていない西側企業にとって試練がどんどん大きくなっている状況を物語っている。ロシアのウクライナ侵攻から1年3カ月が経過し、多くの西側企業は既にロシアを去ったものの、なお残る企業が直面しているのは増大する一方の不確実性と言える。
ノキアンタイヤのヨハンナ・ホルスマ最高トランスフォーメーション責任者はロイターに「戦争が事業環境を急速かつ予測不能な形に一変させた。昨年9月と12月にロシアで新たに規制が改定されたことが重大な影響を及ぼした」と語った。
ウクライナに侵攻したロシアに対して昨年、西側諸国が制裁を科すとともに、通信からアパレル小売りまでロシアでの事業を停止した西側企業は何千にも上る。
中には大幅に値引きして事業を売り払ったり、現地に経営権を委ねたりする方法でさっさとロシアから出て行くことができた企業もあった。
足元では撤退の動きは大きくペースダウンしているが、「残留組」が関連ルールを突破して脱出を果たすのはますます難しくなってきた。
例えば大統領令に基づく資産国有化は常につきまとう脅威で、実際4月にはフィンランドのエネルギー会社フォータムとドイツ電力大手ユニパーが保有資産を接収されている。
<迫る時間切れ>
ノキアンタイヤの撤退手続きに従事したベーカー・マッケンジーのパートナー、ピーター・ワンド氏は、ロシア政府の委員会から承認を取り付けるには非常に多くの要求を受け入れ、長い時間を費やす上に、実現が難しいと明かす。
特にロシア人による事業評価を必要とする手続きは時間がかかるし、強化され続ける制裁の枠組みのために常に順守状況の点検も求められる。ワンド氏は「西側の視点に立てば、この評価手続きの内容や期限についてもっと具体的な説明があってしかるべきだ」と述べ、手続きの義務化が公表されたのはノキアンタイヤが事業売却協議まっただ中にあった12月半ばだったと付け加えた。
3月にロシア事業の売却を完了したノルウェーの紙容器メーカー、エロパックのトーマス・コルメンディ最高経営責任者(CEO)は、「未知の要素」が最大の問題だったと振り返った。
コルメンディ氏は、他のビジネス取引に比べて影響を及ぼす外的要素の可視性がずっと低いと指摘。ロシア政府の委員会は、処理すべき撤退申請書の多さに圧倒されている印象を受けたと話した。
同氏の見方では、エロパックは別の複数の企業とともにグループ化されて指示を受けたが、恐らくその理由は委員会が個別に対応する資源を備えていないからではないかという。
ロシア財務省のモイセーエフ次官は先月、撤退許可を求める企業それぞれに特殊な事情があることが処理を迅速に進められない原因だと説明し、委員会による企業との面会件数は1週間当たりで4-5倍に達し、常に20件の審査を並行して進めていると強調した。
引き続きロシアに資産を保有している西側投資家の1人によると、ロシアの買い手は大きく割り引かれた価格で資産を取得しようとしており、交渉における有利な立場を利用してこちら側の足元を見ている。
ノキアンタイヤのホルスマ氏は、詐欺に引っかからないためには買い手を厳選しなければならないと忠告。多くの買い手は、同時に幾つもの大規模な事業売却案件に首を突っ込んでくる「機会主義者たち」だと述べた。
大事なのはロシア政府との関係になる、と指摘するのはR・ポリティクの創設者タチアナ・スタノバヤ氏。「外国企業が政府側とどんな個人的つながりを持ち、ロシア指導層に影響力を行使できるパートナーになっているかどうかが鍵を握る」という。
ベーカー・マッケンジーのワンド氏は、ロシアに残る西側企業にとって時間切れが迫りつつあると警鐘を鳴らし、「適切な時期までに売却できなければ、事業継続するための資金を得られなくなる状況がやってくるかもしれない」と予想した。
(Alexander Marrow記者)