ニュース速報

ワールド

アングル:米大学入試の「人種考慮」変わるか、最高裁判断に注目

2023年05月28日(日)08時05分

 5月24日、米カリフォルニア州で1998年、公立大学の入学者選抜における「アファーマティブアクション(積極的な差別是正措置)」を禁止する住民投票決議が発効した。写真は2018年5月、マサチューセッツ州ケンブリッジで行われたハーバード大の卒業式(2023年 ロイター/Brian Snyder)

[ワシントン 24日 ロイター] - 米カリフォルニア州で1998年、公立大学の入学者選抜における「アファーマティブアクション(積極的な差別是正措置)」を禁止する住民投票決議が発効した。すると、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)とカリフォルニア大学バークレー校で黒人や中南米系、先住民系の入学者数が50%余りも急減した。

これらの数字は、学生の多様化を推進している全米の大学運営当局にとって警戒を要する数字と言える。米連邦最高裁が6月末までに、これまでの判例を覆して、カリフォルニア州のようなアファーマティブアクション禁止措置を米国全体に適用するのを認める判断を下すと予想されているからだ。

最高裁が現在審理しているのは、ハーバード大学とノースカロライナ大学(UNC)で入学選抜時に人種を考慮することが許されるかどうかを巡って争われている2つの訴訟。

ロイターが十数カ所の大学の幹部に取材したところ、最高裁の判断次第で学生構成における人種や民族の多様性を維持したり、高めたりする取り組みが危機にひんしかねないとの懸念が示された。

カリフォルニア州のポモナ・カレッジの入学選考責任者、セス・アレン氏は「教育熱心で公平な社会の実現という目標に国家全体として逆行するのは決して許されない。だから異なる学生グループ間の入学格差をこれ以上広げない道を確保するため、どのように一致協力していくかを模索するのが、今の高等教育機関で働く人たちの責任だ」と述べた。

多くの米国の大学は過去数十年間にわたり、何らかのアファーマティブアクションを導入し、マイノリティーの学生の入学を増やしてきた。

背景には、それが教育の機会提供だけでなく、キャンパスにさまざまな視点をもたらす上で、多様な学生層を受け入れることに価値があるという考えがある。

各校は多様性をさらに強化する上で、さまざまな対策を検討しているところだ。ヒューストンのライス大学のある幹部は、同校が幅広いバックグラウンドの学生を入学させるため、論文試験を重視すると話した。空軍士官学校は、さまざまな人種が暮らす地域からの学生勧誘に力を入れるという。

ニューヨークのスキッドモア・カレッジの学長は、応募者の層を広げるには高校のカウンセラーとの連携が一段と大事になるとの見方を示した。

多くの大学は、既に学費免除や標準化された試験への選択制導入に踏み切ったほか、経済的支援の拡充を検討中。いずれもマイノリティーの入学促進に役立つ措置だ。

ただ、最高裁が下す判断の内容次第では、こうした計画の変更を迫られる恐れがある、と取材した全ての大学運営当局者は口をそろえた。

アファーマティブアクション禁止命令が出された場合に、何かすり抜ける手だてを打ち出したとしても、それで訴訟に直面するかもしれないと心配する声も聞かれる。

ワシントン州にあるハワード法科大学院トップのダニエル・ホリー氏は「大学がこれから採用する新たな入学基準に起因する訴訟が起こされそうだ」と身構える。

最高裁が審理中の2つの訴訟は、入学者選抜においてハーバード大学がアジア系を、UNCは白人とアジア系を不当に差別していると申し立てがあり、両校がこれを否定するという構図になっている。

<勧誘活動に注力>

こうした中で大学運営当局者の多くは、最高裁による制限の範囲にならないと見込まれる入学者勧誘活動に注力しようとしている。

その一環として、マイノリティーが多い所得や教育水準が低い地域にある高校や地域団体との接触を強化しているという。

カリフォルニア州のピッツァー・カレッジの入学担当幹部、イボンヌ・バーメン氏のチームは、狙いを定めた地域の高校で論文作成教室を開催し、応募につなげたい意向だ。

ミネソタ州のセント・オラフ・カレッジの入学担当部門責任者、クリス・ジョージ氏は、カレッジ・ボードなどの全国組織が提供してくれる地域の所得や住居の安定性に関するデータが、どの高校にチームを派遣して勧誘イベントをすれば良いかを判断する上で役立つと明かした。

また、複数の大学運営当局者によると、どの学生が有望かを把握し、彼らの応募手続きを支援してくれる地域団体が、多様なバックグラウンドを持つ応募者を集めるための重要なパートナーになるだろうという。

ロサンゼルスに近いポモナ・カレッジやニューヨークにあるサラ・ローレンス・カレッジなど都市近郊の大学の運営当局者は、人種構成が多様な高校からより多くの学生を取り込み、地域のコミュニティーカレッジからの転校生も増やすと意気込んでいる。

空軍士官学校の入学担当ディレクター、アーサー・プリマス・ジュニア大佐は、人種多様性勧誘チームが引き続きマイノリティーが集中する地域の高校を訪れ、より多くの学生が地元議員からの推薦をもらえるよう取り組んでいくと語った。

(Gabriella Borter記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英BP、ブラジルの大型油田発見で提携先模索へ

ビジネス

EV分野の脱中国化で欧州と南アの協力必要、BMW幹

ビジネス

日銀版需給ギャップ、4─6月期は-0.32% 21

ワールド

独ミュンヘン空港、ドローン目撃で一時閉鎖後に運航再
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 7
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 8
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 9
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中