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アングル:北朝鮮の弾道ミサイル、実験失敗は開発進展のサインか

2022年03月19日(土)07時48分

失敗に終わったとみられる北朝鮮による3月16日のミサイル発射が、同国の計画に長期的な打撃を及ぼすかどうかは定かでない。写真は2月、ソウル市内のモニターで、北朝鮮によるミサイル発射のニュースを見る人々(2022年 ロイター/Yonhap)

[ソウル 17日 ロイター] - 失敗に終わったとみられる北朝鮮による16日のミサイル発射が、同国の計画に長期的な打撃を及ぼすかどうかは定かでない。しかし失敗もミサイル開発計画の重要な一部であり、北朝鮮の場合には往々にして、自力で設計する技術が進んでいる兆候だとアナリストは指摘している。

韓国軍によると、北朝鮮が発射実験を行ったのは弾道ミサイルと推定され、平壌近郊の国際空港から16日朝に発射されて間もなく、空中で爆発した。北朝鮮はコメントしておらず、各種報道を公に認めていない。

失敗は北朝鮮にとって苦々しい挫折であり、破片が落ちる場所にいる人々にとっては危険をはらむ。しかしアナリストは、ミサイル技術者はしばしば成功例と同じくらい失敗例からも多くを学ぶと話す。また、弾道ミサイルと核兵器の開発抑止に向けた国際努力が行き詰まっている間に、北朝鮮が開発を進めていることが今回の実験でさらに明確になったという。

米カーネギー国際平和基金のシニアフェロー、アンキット・パンダ氏は「ミサイル発射に失敗したからといって、彼らがこの実験から学ばないわけではない。失敗も、能力向上のための有用なデータ群になり得る」と話した。

米国と韓国の高官らは、北朝鮮が2017年以来、完全な規模での大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験に向けた準備を進めている可能性を指摘してきた。今回の国際空港にはICBM関連施設とみられる建造物が建設されたため、実験再開の場合にはここが中心地となる可能性がある。

米スタンフォード大学・国際安全保障協力センター(CISAC)のメリッサ・ハンハム氏によると、北朝鮮はこの種のミサイルを開発した多くの諸外国に比べ、知られている限りでは実験の失敗率が著しく低い。

実験を繰り返した17年に、中距離弾道ミサイル「火星12」が人口密度の高い地域の上空で爆発したのが目立った失敗例だ。

「率直に言って、もっと多くの失敗が起こらないことに今でも驚いている」とハンハム氏は言う。

失敗の少なさについて一部のアナリストは、北朝鮮が少なくとも当初はロシアなどの友好国に大きく技術依存していたことの証左だと指摘してきた。最初のICBMである「火星14」にも、イランとの協力から得た技術が用いられていると考えられている。

欧州を拠点とするミサイル専門家、マーカス・シラー氏は「完璧な開発などあり得ない。完璧に見える例があった場合には、多くの開発作業が既に他国で完了していたことが判明するのが常だ」と言う。「従って、その見地に立てば、発射失敗は真の自国開発を示唆するのかもしれない」

<エンジンに問題か>

北朝鮮は16日にどのミサイルを発射したかを明らかにしていない。同じ空港で行った2月27日と3月5日の発射実験についても同様だ。

同国はこれらの発射について、偵察衛星設備の実験が目的だったとしているが、米韓の高官らは、巨大な新ICBM「火星17」の秘密実験だと述べた。

「火星17を含む、より巨大で新型のミサイルに移行するにつれて失敗が増えるのは理にかなっている」とパンダ氏は言う。

もっともシラー氏は、16日に失敗したのが火星17の実験だったとすれば、最初と2番目の実験に失敗しなかったのは異例だと指摘する。実験の間隔が非常に短いのも、開発計画としては異例のことだという。技術者が設計を修正する時間がないからだ。

シラー氏は、「従って、最初の発射以前からミサイルは既に製造され、発射の準備が整っていたようだ。このことは、開発計画が既に試作品の製造段階より先に進んでいることを示唆するだろう」と分析。別の可能性としては「大きなリスクをとっていることの現れかもしれない」という。

ハンハム氏の見立てでは、ミサイルは打ち上げ直後に爆発したため、多段式の推進装置の1段目で起こった可能性が高い。火星17のケースでは、1段目には巨大で複雑なエンジン4基が使われている。

「北朝鮮は個々のエンジンの実験が成功したと喜んでいたが、火星17の1段目で4基を一緒に使うとは非常に大胆な挑戦だ」とハンハム氏は語った。

(Josh Smith記者)

ロイター
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