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アングル:米民主党進歩派の「顔」、グッズ販売で狙う一石二鳥

2021年07月25日(日)08時13分

 AOCこと、アレクサンドリア・オカシオコルテス米下院議員は、富裕層への課税や気候変動対策への重点投資を掲げ、米国で最も著名な民主党進歩派の1人になった。同議員は今、Tシャツやスウェットシャツなどのグッズを販売する自身のオンラインストアに積極投資している。写真は同議員の名前入りTシャツを着た支持者、16日にニューヨークのブルックリンで撮影(2021年 ロイター/Brendan McDermid)

[ワシントン 19日 ロイター] - AOCこと、アレクサンドリア・オカシオコルテス米下院議員は、富裕層への課税や気候変動対策への重点投資を掲げ、米国で最も著名な民主党進歩派の1人になった。同議員は今、Tシャツやスウェットシャツなどのグッズを販売する自身のオンラインストアに積極投資している。

グッズには「AOC」のロゴや、「金持ちに課税を」、「わたしたちの将来のための闘い」といったスローガンがあしらわれている。資金調達と併せ、全米で自身の知名度を高めるという「一石二鳥」が物販の狙いだ。

オカシオコルテス議員の選挙陣営は今年上半期に、ストアを運営する民主党系物販企業「ファイナンシャル・イノベーションズ」に140万ドル(約1億5000万円)以上を投資した。連邦選挙委員会への開示書類で先週明らかになった。

これは、この間に多くの議員が投じた再選対策費(物販以外も含む全体)を上回る。しかも、これに先立つ2年間に自身がこの企業に払った額の倍近くに上る。

かつて米国の街角で政治的なTシャツや垂れ幕を見かけることは珍しく、選挙戦ボランティアか政治マニアの目印といった感じだった。それが過去6年間で様相は一変。トランプ前大統領の支持者らが、彼のトレードマークである「アメリカを再び偉大に」と書かれた赤い帽子をかぶるようになった。

政治関連の物販は、小規模ながらも重要な資金調達手段だ。オカシオコルテス議員の資金調達力は以前から並外れていたが、物販への積極投資を見ると、その能力にますます磨きがかかっているようだ。民主党内でブランド力を着実に築きつつあることも分かる。

「彼女が強大な影響力を育んでいる証拠だ」と語るのは、昨年の米大統領選の民主党予備選候補者、アンドリュー・ヤン氏のグッズ販売を手掛けたアンドリュー・フローリー氏だ。

<カルト的>

オカシオコルテス議員は党内で正式な指導的役割に就いているわけではないが、議員には珍しいスター性を備えている。インスタグラムのフォロワー数は800万人を超え、昨年はファッション誌「ヴォーグ」向けに毎日のスキンケアを詳しく紹介する動画を撮影した。専門家は同議員がオンラインストアで自身の人気をうまく利用していると解説する。

ステットソン大学で政治ブランディングを研究するチャラ・トレススペリシー氏は物販について「ひとつには選挙戦の資金調達という側面がある。そして、ほかに良い言葉が見つからないのだが、彼女の人となりにはカルト的な側面がある」と話した。

オカシオコルテス議員は2018年、議会中間選挙の民主党予備選で当時の下院民主党議員総会議長を下し、本選挙でも楽勝。民主党進歩派が押し進める気候変動対策「グリーン・ニュー・ディール」の顔となった。

オカシオコルテス議員が出馬したニューヨーク州の選挙区は圧倒的にリベラル寄りで、同議員が来年の中間選挙で議席を失うリスクはほとんどない。

<金持ちに課税を>

テキサス州の大学生、カイリー・ボルトンさん(22)は、オカシオコルテス議員陣営から「金持ちに課税を」シャツを買った。これを着ているとほめられることもあるが、あきれ顔をされることもあると言う。

自身は「この言葉の意味が好きだし、AOCが好き」だ。

物販収入は選挙戦の献金額と見なされるが、同議員の物販収入は明らかになっていない。献金が物販収入を含んでいるか否かが、選挙戦の開示書類に明記されることはまれだ。

フローリー氏は、オカシオコルテス議員陣営が大半の物販で50%かそれ以上の利益を得ている可能性があると言う。

共和党上院トップ、マコネル院内総務の選挙などでオンラインショップを立ち上げたことのある共和党コンサルタント、マイケル・ダンカン氏によると、物販には購入者の連絡先情報が得られ、将来の資金調達やボランティア採用に役立つという利点もある。「これは政治キャンペーンにとって大きな価値がある」とダンカン氏は述べた。

オカシオコルテス議員陣営は電子メールで、オンラインストアは「有色人種の独立系アーティストの地位向上に焦点を当てている」と説明した。

同議員が昨年11月の選挙以降に集めた資金は約690万ドルに達した。ペロシ下院議長の1080万ドルや、上院民主党トップのシューマー院内総務の2390万ドルなど、民主党指導部議員の水準に近づいている。

政治科学者のエリカ・フランクリン・ファウラー氏は「彼女にはもっと高い地位に登りたいという野心があると見てよいだろう。豊富な資金力がそれに役立つのは間違いない」と語った。

(Jason Lange記者)

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