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焦点:気候対策遅れるロシア、サハリンで「ネット・ゼロ」始動

2021年02月26日(金)17時11分

 2月19日、豊かな化石燃料資源を抱えるロシアは、気候変動対策におけるリーダーとは思われていないかもしれない。写真は2018年5月、サンクトペテルブルクで撮影(2021年 ロイター/Grigory Dukor)

[サンクトペテルブルク(ロシア) 19日 トムソン・ロイター財団] - 豊かな化石燃料資源を抱えるロシアは、気候変動対策におけるリーダーとは思われていないかもしれない。だが極東ロシアでは、当局が意外な実験に着手している。炭素排出量取引を試行し、2025年までに温室効果ガス排出量の「ネット・ゼロ」、つまり吸収分も含めて実質的な排出量ゼロを達成しようという取り組みだ。

日本の北方、太平洋に浮かぶロシア領サハリン島に置かれた州政府は、電気自動車を対象とした優遇税制、充電ステーション及び専用駐車場の整備に加え、2035年までにガソリン・ディーゼル燃料車の全面禁止を予定している。

サハリン州当局者が明らかにしたところでは、「ネット・ゼロ」に向けたロードマップがロシア連邦政府による承認を得た後、サハリン地域では、石炭火力発電所は環境負荷が低めの天然ガスに切り替えられ、水素燃料を用いる旅客列車が展開されるという。

ロシア政府は、環境保護団体やアナリストから気候変動対策の目標設定は消極的すぎるとの批判を浴びているが、この1月、国内初となる炭素排出量取引スキームの試行に向けたサハリン州政府の提案に承認を与えた。

<投資誘致と生活・環境の改善を両立>

約50万人が生活するサハリン州の経済の柱は、石炭を含む化石燃料の生産である。

サハリン州の「ネット・ゼロ」計画では、8月までに州内での温室効果ガス排出量と自然環境による炭素回収能力を洗い出した上で、2022年半ばの運用開始をメドに排出量取引制度を構築する。

ロシアのマクシム・レシェトニコフ経済開発大臣は公式声明のなかで、「この実験によって、炭素(排出量)規制に向けたさまざまな措置を試し、後日の全国レベルでの展開に向けて有効性を評価できるようになる」と述べた。

さらにレシェトニコフ氏は、「投資家が『グリーン』プロジェクトに関心を持ち、気候変動対策のより積極的な目標に前向きな企業が、この実験に参加する意欲を持つよう期待している」とも述べている。

トムソン・ロイター財団の取材に応じたサハリン州のビャチェスラフ・アレンコフ副首相によれば、この取り組みは同州の主導によるものであり、投資誘致の強化、生活の質の改善、環境問題解決への寄与を狙っているという。

サハリン州では、排出量取引と電気自動車の利用拡大だけでなく、炭素排出量の少ない天然ガスによる石炭の置き換え、ブルー水素(生産に化石燃料を用いるが、排出される二酸化炭素は回収される)、グリーン水素(生産にも再生可能エネルギーを用いる)の生産、州内の広大な針葉樹林帯の持続可能な管理の推進をめざしている。

アレンコフ副首相によれば、州内で採掘される石炭全体の約97%は州外に輸出されており、石炭産業の環境負荷を減らすテクノロジーが導入されれば、今後も石炭は州内における備蓄用燃料として残る可能性があるという。

<「再生可能エネルギーの島」への変身は可能か>

アレンコフ副首相は、現在、住民の約3分の1に留まっている輸送・家庭用天然ガスの利用を推進していくほか、クリル諸島を中心に、再生可能エネルギーを開発する計画もあると話している。

山がちの地形のサハリン州は90近い島々で構成されており、小規模な水力、風力、太陽光、さらには地熱発電にも適している。アレンコフ副首相によれば、まだ開発は進んでいないものの、これらの資源によってエネルギーが利用しやすくなる可能性があるという。

再生可能エネルギー開発の可能性については、必要なテクノロジーや予算も含めて評価されており、今年中に最初の報告が行われる予定である。アレンコフ副首相は、すでに投資家からの関心も寄せられていると話す。

またアレンコフ副首相は、サハリン州では中国、日本、そして恐らく欧州連合といった他国・地域の排出権取引制度との提携を推進し、同州の炭素排出権について「国際航空のためのカーボンオフセット及び削減スキーム(CORSIA)」の認証獲得をめざしている、と述べた。

モスクワ経済高等学院で気候政策を研究するゲオルギー・サフォノフ氏は、バイオエネルギー、再生可能エネルギーの面でサハリン州のポテンシャルは高いと語る。同氏は、グリーン水素を含むクリーンエネルギーや、電気自動車による輸送、森林による炭素吸収に関して、当局はもっとしっかりした計画を策定すべきだと主張する。

<全国規模では低調>

グリーンピース・ロシアのエネルギー関連部門を率いるウラジミール・チュプロフ氏によれば、炭素排出量の規制という点で、ロシアはグローバルなトレンドに10─15年遅れているという。

トムソン・ロイター財団の取材に応じたチュプロフ氏は、「他の多くの国ではとっくに理解していることを、この国はようやく知りつつある」と語る。

だが、ロシアの国家的な排出量規制目標が事実上少しも削減を求めるものではないため、排出量オフセットの需要はなく、全国規模の炭素排出権取引市場を構築するのも難しいだろう、と同氏は言う。

この4年間議論されてきた新たな炭素規制法案には、炭素税や全国規模の炭素排出権取引制度が盛り込まれていない。産業界からの執拗なロビー活動のためだ、とチュプロフ氏は指摘する。

ロシアは2019年9月に地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に参加したが、研究機関「クライメート・アクション・トラッカー」によれば、ロシアの現行の気候政策・目標は、工業化以前と比較した平均気温の上昇を2度よりも「十分低く」押さえるという同協定の目標から大きく外れている。

低炭素社会に向けたロシアの長期的な開発戦略案は今年承認される予定だが、多くの専門家は腰の引けたものと評価している。実質的な炭素排出量をゼロにする「カーボン・ニュートラル」状態を今世紀半ばより前に達成する見込みがないためだ。

パリ協定に基づくロシア初の排出量目標は昨年11月にウラジーミル・プーチン大統領の承認を得ている。温室効果ガスの排出量を2030年までに、1990年の水準から最低30%削減するというものだ。この削減分には、森林及びその他の生態系が吸収・放出する炭素も含まれている。

だがロシアの排出量は、すでに1990年の水準よりも約30%少なくなっている。これは森林を考慮に入れない数値で、入れた場合には50%以上も少ない。

ロシア経済省も2020年末に、短期的な気候関連政策は、エネルギー効率の改善、企業の排出量削減プロジェクトへの投資を促すインセンティブ及び支援措置、森林による炭素吸収・放出を測定する手法の刷新に重点を置くことになるだろうと話している。

計画では、2019年の水準に比べ、2030年までにエネルギー効率を30%改善するという目標を掲げている。これまでは2020年までの目標を設定していたが、これは大幅な未達成に終った。

イリヤ・トロソフ経済開発副大臣はジャーナリストに対し、新たな目標が達成できれば、2030年までにロシアの炭素排出量を現在の水準に比べ約半分に削減できる、と述べた。

WWFロシアで気候・エネルギー部門のディレクターを務めるアレクセイ・ココリン氏は、サハリン州での実験が可能になったのは、同州で活動する石油・ガス企業が自社のカーボン・フットプリント(炭素排出量への影響)を削減することに熱心で、炭素排出権の購入による相殺を通じて「サハリン2」プロジェクトの一部でカーボン・ニュートラルな液化天然ガスの生産を開始しているためだという。

「この実験はもちろん歓迎すべきだ。だがロシアは、国家レベルの排出量削減目標を再検討し、気候変動対策へのコミットメントをもっと大胆なものにする必要がある」とココリン氏は話している。

(翻訳:エァクレーレン)

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