ニュース速報

ワールド

焦点:中国、コロナワクチン開発で先頭集団に 「戦時並み」速度

2020年07月11日(土)08時10分

7月7日、新型コロナウイルス感染症のワクチン開発競争で、中国が先頭集団を走っている。写真は2018年11月、天津のカンシノ・バイオロジクスのラボで撮影(2020年 ロイター)

Sangmi Cha Miyoung Kim

[ソウル/シンガポール 7日 ロイター] - 新型コロナウイルス感染症のワクチン開発競争で、中国が先頭集団を走っている。シノバック・バイオテック(科興控股生物技術)が開発中のワクチンは月内に、中国で2番目、世界で3番目に第3期臨床試験(治験)へと進む予定だ。

世界のワクチン産業の中では後発組の中国だが、現在は国、軍、民間を挙げて新型コロナワクチンの開発に力を入れている。

ただ、中国には多くの障害もある。既に感染拡大阻止に成功していることで、他国に比べて国内で、感染を試す大規模な治験がやりにくくなったことがある。ほかにも治験に協力してくれるのは一握りの国だけという点がある。

また、中国は近年、基準を満たさないワクチンを発売する複数の不祥事があったため、安全性・品質基準を達成していると世界を納得させる必要もある。

とはいえ、計画経済型の開発方法は実を結んでいる。

例えば、ある国営企業は2つのワクチン開発工場を2、3カ月という戦時並みのスピードで完工させた。国有企業と軍は、従業員や兵士らに対する試験的なワクチン接種を認めている。

人民解放軍の医療調査部門も、カンシノ・バイオロジクス(康希諾生物)<6185.HK>などの民間企業とワクチン開発で協力している。

伝統的に西側諸国が牛耳ってきたワクチン産業だが、中国は今回、ヒトへの治験候補に挙がっている世界の新型コロナワクチン19種類のうち8種類に関与。このうちシノバックの治験と、軍およびカンシノの共同開発が先頭集団に入っている。

中国はまた、主に不活化ワクチン技術に的を絞っている。インフルエンザやはしかのワクチンに使われてきた、良く知られた技術であるため、開発に成功する確率は高いかもしれない。

対照的に、米モデルナ、独キュアバック、独ビオンテックなど複数の西側企業は、メッセンジャーRNAと呼ばれる新技術を用いている。この技術で開発された製品が規制当局の承認を得た前例はまだない。

<実証済み>

米フィラデルフィア児童病院・ワクチン教育センターのディレクター、ポール・オフィット氏は、不活化ワクチン技術について「実証済みの戦略だ」と指摘。「もし、私が安全で有効なワクチンになる確率が最も高そうな技術を選ぶよう迫られたなら、これにする」という。

ヒトでの治験候補に挙がっている中国のワクチンのうち、国有会社シノファーム(国薬控股)傘下会社やシノバックなどが開発する4種類は不活化ワクチンだ。

現在、治験の最終段階である第3期臨床試験に進んだワクチンはシノファームと、英アストラゼネカおよびオックスフォード大による共同開発の2種類しかない。シノバックのワクチンは、月内に世界で3番目に仲間入りする予定だ。

<課題>

しかし、新型コロナ感染が封じ込めに向かっている中国では、感染者に薬効があるかどうかを試す大規模な治験が、しにくいという事情がある。

このため同国は海外に目を転じたが、協力に前向きな国はアラブ首長国連邦(UAE)、カナダ、ブラジル、インドネシア、メキシコなど一握りだ。欧州主要国と米国は自前のプロジェクトに専念しており、中国の開発に関心を示さない。

ワクチンの安全性・品質基準についての取り組みもしなければならない。中国は昨年、ワクチン業界の規制を強化する法律を導入し、偽の、あるいは低品質のワクチンの製造・販売に対する罰則を厳格化している。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中