ニュース速報

ワールド

焦点:「虎の子」核戦力に依存する北朝鮮、米朝協議は視界不良

2018年11月17日(土)09時47分

11月13日、米国の北朝鮮非核化協議が停滞の様相を見せる中で、北朝鮮側は依然として核戦力を体制保障や諸外国からの譲歩を引き出す重要な手段とみなしている。写真は北朝鮮が公表していないミサイル開発施設の1つとCSISが指摘したサッカンモルの衛星写真。2018年3月撮影。提供写真(2018年 ロイター/CSIS/Beyond Parallel/DigitalGlobe)

[ソウル 13日 ロイター] - 米国の北朝鮮非核化協議が停滞の様相を見せる中で、北朝鮮側は依然として核戦力を体制保障や諸外国からの譲歩を引き出す重要な手段とみなしている、と専門家は口をそろえている。

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、米国が制裁強化に動いても、核弾頭と弾道ミサイルの戦力拡大計画を決して撤回しておらず、むしろなお行方が不透明な非核化協議における自らの交渉上の武器にしつつある。

12日には米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が、北朝鮮が公表していない推定20カ所のミサイル開発施設のうち13カ所を特定したとの報告書を発表。協議を通じて金正恩氏に核開発断念を説得できると期待する米当局者に、厳しい現実が突き付けられた。

韓国政府傘下の国家安全戦略研究所の研究員Moon Hong-sik氏は、時間がたつにつれて北朝鮮の核戦力強化が進む公算が大きく、米政府は完全な非核化へのこだわりを考え直さざるを得なくなると予想。「米国は『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』という理想を追い求め続けるか、限定的な非核化に向けて妥協するか選択しなければならない」と話した。

トランプ大統領は6月のシンガポールにおける金正恩氏との会談で、朝鮮半島の完全な非核化を目指して協力していくことで合意。ところがそれ以降、協議が進展した形跡は乏しく、最近では米朝のハイレベル会合が中止になった。トランプ氏は先週、性急に進めるつもりはなく、金正恩氏と2回目の会談を開きたいとの考えを明らかにした。

米当局者は制裁が北朝鮮を交渉のテーブルに引き出したのだから、完全な非核化実現まで圧力をかけ続けると表明しているものの、北朝鮮が核・ミサイルを米国と対峙する際の突破口になると頼りにする姿勢は変わらない。

複数の専門家の話では、金正恩氏自身の発言からは、北朝鮮が米国と完全非核化協議に臨みながらも核開発と兵器生産を続けていく方針であることが分かる。

米ジェームズ・マーティン不拡散研究センター(CNS)のシニア・リサーチアソシエート、ジョシュア・ポラック氏は「金正恩氏は今年初めの演説で、核兵器・ミサイルについて全面的な開発・生産に移行するよう求めており、以後そうした方針に矛盾する発言や行動はしていない」と述べた。

各メディアが北朝鮮による「大いなる欺瞞」と報じたCSISの報告書について、韓国大統領府のキム・ウィギョム報道官は、北朝鮮はミサイル開発施設の廃棄を正式に約束したわけではないと冷静に受け止めた。

一方ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は13日シンガポールで記者団に、トランプ氏が「北朝鮮に非核化すれば違った未来へとつながる扉を歩んでいける素晴らしい機会を提供したのだが、彼らは引き続きそれを行動に移す必要がある」と語った。

韓国の民間シンクタンク、峨山政策研究院のShin Beom-chul所長は、CSISの報告書から得られたことを要約すれば、まず北朝鮮は非核化協議に真摯になっておらず、次に彼らの核開発・生産能力が変化していないということだと解説する。

金正恩氏は4月の演説で、核戦力は遠い将来まで大事な役割を果たすなどと発言した。CNSのポラック氏は「核戦力を確固とした安全を保証する唯一の手段と描写した点に注目しなければならない。彼らは核戦力保持の恒久化以外のいかなる『安全の保証』も求めていない」と指摘している。

(Josh Smith記者)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

任天堂、25年3月期のスイッチ販売計画は1350万

ビジネス

任天堂、今期営業益見通しは24%減の4000億円 

ビジネス

午後3時のドルは154円半ば、連休終えて円反落

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、米金利低下を好感 ハイテク
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中