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アングル:地震対策遅れるイタリア、歴史建造物と財政難が壁に

2016年08月26日(金)07時51分

 8月24日、イタリア中部は、世界で最も活発な地震活動地帯の1つであり、地震の震動が定期的に同国を貫く山脈を揺らしている。写真は、イタリア中部のペスカーラ・デル・トロントの被災現場を歩く男性。24日撮影(2016年 ロイター/Remo Casilli)

[ローマ 24日 ロイター] - イタリア中部は、世界で最も活発な地震活動地帯の1つであり、地震の震動が定期的に同国を貫く山脈を揺らしている。

地震の多くは無視できるほど小さなものであり、何世紀も続くコミュニティーで感じられることはめったにない。電子センサーに記録されるのみだ。しかし、24日に発生した地震では、これまでに250人近くが死亡し、数多くの建物が倒壊した。

今回のような災害が将来再び起きることは避けられないとみられるなか、イタリアは人命と財産を守るためにもっとやれることがある、と専門家は指摘する。

「イタリアでは、平均して15年に一度、マグニチュード(M)6.3以上の地震が発生してもおかしくない。地震防災と市民保護の文化がもっと促進されていいはずだ」と、イタリアの地質研究所で調査研究を率いるファビオ・トルトリーチ氏は語る。

米地質調査所(USGS)によると、24日発生の地震はM6.2を記録。震源の深さはわずか10キロメートルで、この浅い深度が破壊力を増幅させた。

「イタリアを貫くアペニン山脈は、地殻変動によって1年間に3ミリ程度、北東と南西の方向に徐々に引っ張られている」と指摘するのは、英国のダラム大学で地球科学の講師を務めるリチャード・ウォルターズ氏だ。

「このゆっくりとした伸張が地殻のひずみを増大させ、今回のような地震で放出されている」

今回の地震は2009年以来、イタリアで最も被害が甚大な災害となった。同年の地震では、300人以上が死亡し、5万5000人が家を失い、13世紀に築かれた都市ラクイラを破壊した。

このラクイラ地震は、教会や病院、大学寮など近現代と古代の両方の建物を破壊し、イタリアのインフラのもろさを改めて露呈した。

<安全基準>

市民保護の専門家による2008年の調査によると、同国で最も被害を受けやすい中部では、わずか14%の建物しか耐震基準を満たしていなかった。

新しい建物の建築に関して、かなり厳しい基準が同年新たに設けられたが、ほとんどの家やオフィスは地震活動の危険にさらされたままだった。

イタリアの全国保険協会によって先月公表された報告書によると、同国の3分の2の地方自治体が地震帯に位置し、それと同じくらいの割合で建物も耐震性を備えていなかった。

「いくつかのことは改善された。しかし、もっとできるはずだ」と、地質研究所のトルトリーチ氏はロイターに対し、こう述べた。

「真の問題は、耐震基準がなかった1970年代以前に建造された建物にある。この国は、寿命に限りがあるセメントに覆われている」と同氏は言う。

中世から続くすべての村落とルネサンス時代の宮殿の魅力を奪うことなく、それらの耐震を強化するためにかかるばく大な費用を考えると、イタリア全土の古い建物を強化し、安全性を高めるどんな施策も激しい抵抗に遭うだろう。

トルトリーチ氏は、政府が全国的に安全性を高めるインセンティブを提供することができると語る。しかし、欧州最大規模の債務にあえぐなか、イタリアは民間セクターに気前の良い奨励策や、あらゆる公共建造物に安全対策を施すのに必要な大規模な投資を行えるほどの余裕はない。

65歳のアルティエロ・チナグリアさんは、アルクアータ・デル・トロント村でがれきに囲まれながら、日本式の安全基準をイタリアに導入することには悲観的なようだ。

「何をすればいいのか。新しい建物のために古い建物を取り壊すことなどできない。これらの街は夏は観光のために存在し、観光客は古くて美しい建造物を見たいと思っている」とチナグリアさんは話す。

「できることは何もない」

(Crispian Balmer記者 翻訳:高橋浩祐 編集:伊藤典子)

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