ニュース速報

ワールド

中国人「爆買い」で粉ミルク不足の豪州、対中FTAに課題

2015年11月16日(月)11時11分

 11月11日、オーストラリアでは粉ミルクが品薄状態に陥っている。粉ミルクへのメラミン混入事件を契機に、もはや自国ブランドを信用しない中国人観光客が、転売目的に豪州のスーパーマーケットで買い占めているためだ。シドニーの小売店で撮影(2015年 ロイター/David Gray)

[シドニー 11日 ロイター] - オーストラリアでは粉ミルクが品薄状態に陥っている。粉ミルクへのメラミン混入事件を契機に、もはや自国ブランドを信用しない中国人観光客が、転売目的に豪州のスーパーマーケットでいわゆるこの「ホワイトゴールド」を買い占めているためだ。

年間1000億豪ドル(約8兆7080億円)規模となる自由貿易協定(FTA)に豪州と中国が署名したなか、今回の粉ミルク不足は、人口2360万人の豪州食品メーカーにとって、人口14億人の中国からの需要を満たすのは苦戦が予想されることを示唆している。

「豪州では鉱業ブームから食ブームへの転換、などと盛んに言われているが、実際には、膨大な数の人々が必要とする食料を供給することなどできない」と、ナショナル・オーストラリア銀行のアグリビジネス担当エコノミスト、フィン・ジーベル氏は話す。「それはまったく無理な話だ」と言う。

中国人の旺盛な購買欲を背景に、豪州スーパーマーケットチェーン大手のウールワースとコールズは、現地メディアが「ホワイトゴールド」と呼ぶ粉ミルクの販売制限を余儀なくされている。一方で、メーカーは需要を満たすために増産している。

香港と英国が2013年に粉ミルクの購入制限を実施して以降、豪州産粉ミルクの売上が急増。自国産食品の安全性懸念に目を付けた中国人が豪州で粉ミルクを大量に購入し、最大500%も値上げして転売しているからだ。

先月に一人っ子政策を撤廃して夫婦に第二子を持つことを認めた中国からの買い物客は、豪ドル安の恩恵も受けている。豪ドルは現在、1カ月ぶりの安値水準で推移している。

豪州では粉ミルクの国外輸送は10キロ未満まで法的に認められているが、ある母親がソーシャルメディアに1枚の写真を投稿したことで、こうした「爆買い」への反感が高まった。その写真には、ある小売店の粉ミルクの在庫すべてとみられる約10箱を買い占める人の姿が写っていた。

豪州の粉ミルクメーカー、ベラミーズの株価はこの1年間で10倍近く上昇。同社の時価総額は2014年上場時の9700万豪ドルから、約10億豪ドルまで跳ね上がった。

ベラミーズのウェブサイトによると、豪州では1缶25豪ドルの同社製粉ミルクが、中国では38豪ドルで販売されているという。

一方、ライバル社のニュージーランドの乳業メーカー、A2ミルクの株価は、今年3月のオーストラリア証券取引所(ASX)上場以来、68%上昇した。

A2豪州部門社長のピーター・ネイサン氏は「中国人観光客からの需要は増大しているが、それほど在庫が不足しているわけでもない」とした上で、「増産のためにするべきことはすべて行っている。製品を適切に管理できるかどうかは、小売店次第だ」と述べた。

豪州外務貿易省のリチャード・コルベック次官は声明で、国内消費者に対する粉ミルクの安定供給の確保を目指して、スーパーマーケットやドラッグストアの代表者らと話し合いを行ったと述べたが、詳細は明かさなかった。

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中