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アングル:TPP大筋合意で焦る欧州、米国との通商交渉こう着

2015年10月07日(水)14時41分

 10月6日、環太平洋連携協定交渉が大筋合意に達したことを受けて、欧米間の自由貿易協定、すなわち「環大西洋貿易投資パートナーシップ」交渉も勢い付く可能性がある。ワシントンで5月撮影(2015年 ロイター/Yuri Gripas)

[ブリュッセル 6日 ロイター] - 環太平洋連携協定(TPP)交渉が大筋合意に達したことを受けて、欧米間の自由貿易協定(FTA)、すなわち「環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)」交渉も勢い付く可能性がある。

しかしTTIP交渉は現在こう着しており、世界的な自由貿易の動きに取り残されることを避けるため交渉を加速するよう、欧州への圧力が強まりそうだ。

TPP交渉に参加する日米を含む12カ国は5日、米ジョージア州アトランタで開いていた閣僚会合で大筋合意に達した。世界経済のおよそ40%を占める巨大な自由貿易圏の誕生に向けて大きく前進した。

欧州連合(EU)が米国との締結を目指すTTIPは、2013年に交渉を開始。世界の貿易の3分の1、国内総生産(GDP)の半分近くに相当する巨大FTAだ。しかし、交渉は現在行き詰まっている。

ワシントンは、TTIPに本格的に取り組む前に、TPP交渉を決着させる方針だったとみられる。欧州委員会のマルストローム委員(通商担当)は、TPP交渉の大筋合意は良いニュースだとしている。

通商問題に詳しい欧州議会議員のマリエッテ・シャーケ氏は、米国は今後、TTIPに時間と政治的資本を割くことができるようになる、とし、難しい問題の議論を回避する口実はなくなるとの見方を示した。

「TPPはまた、欧州が世界の通商ルールや規範作りを主導するのか、それとも他国に委ねるのか二者択一を突き付けている」と述べた。

欧州国際政治経済研究所ディレクターのホースク・リー・マキヤマ氏は、TPPにより貿易は欧州を迂回し、欧州を犠牲にして米国のGDPが拡大すると指摘。「TTIPをゼロから始める必要がある」と強調した。

TPPは、およそ1万8000品目の関税を撤廃、もしくは引き下げる。それに対してTTIPは関税の撤廃だけでなく、ビジネスコスト削減に向けた規制や共通基準での合意など、新たな形の協定を模索しており、妥結できれば今後の貿易協定のモデルになる可能性がある。

<欧州、日米との通商交渉に手詰まり感>

TTIPは欧米に1000億ドル超の恩恵をもたらすとみられ、中国経済が鈍化するなか成長余地を探る欧米双方にとって極めて重要だ。

ただEUの交渉担当者の間では、通商交渉において米国が柔軟性に欠け、関税の引き下げにも消極的だとして、不満の声が上がっている。

フェクル仏貿易担当相は先週、米国は真剣な提案をしていないと批判。「フランスはあらゆる選択肢を検討する。(米国が)態度を変えなければ、交渉撤退も含めて選択肢を検討することになる」と述べた。

一方、EU加盟国のなかには、TTIPを望んでいると明言していても、懐疑的な国民向けにはトーンダウンしている国もあるという。

EUが貿易協定の締結を目指しているのは、米国との間だけではない。

TPPに参加している12カ国のなかで、EUはすでに、メキシコ、チリ、ペルー、シンガポールとの間で2国間の貿易協定を締結済み。カナダとベトナムとは、暫定的な合意に達しており、米国、日本、マレーシアとは現在、交渉を行っている。また、オーストラリアとニュージーランドも、EUとの通商交渉開始に前向きと見られている。

EU当局者は、日本もTPPが決着するまでの間、(欧州との交渉を)引き延ばしていたのではないか、と話している。TPPが大筋合意に達したことで、欧州との交渉で日本の立場が強まった可能性がある。

オランダのシンクタンク、クリンゲンタールのピーター・ヴァン・ハム氏は、それは悪いことではないと話す。「TPPが圧力になっているが、物事を進めるためには圧力が必要なこともある」と述べた。

(Philip Blenkinsop記者 翻訳:吉川彩 編集:橋本俊樹)

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