最新記事
BOOKS

AIが「思ったほどすごくない」5つの理由...まだ問題だらけ、最も重要なのはCO2排出量!?

2024年4月27日(土)21時00分
印南敦史(作家、書評家)
AI

Josefkubes-shutterstock

<AI快進撃のニュースが続くが、日本人が見過ごしている不都合な事実がある>

『世界のニュースを日本人は何も知らない5――なんでもありの時代に暴れまわる人々』(谷本真由美・著、ワニブックスPLUS新書)の著者の名を聞いてまず思い出すのは、「めいろま」名義でのX(旧Twitter)への歯に衣着せぬポストである。

的を射た主張が多いだけに納得させられることが多い半面、あまりにストレートなものだから時にヒヤヒヤしたりするのも事実。とはいえ重要なポイントは、この著者の豊富な知識量だ。


 私はこれまでインターネットベンチャー、国連専門機関の情報通信官、投資銀行、外資系金融機関などでの勤務経験があり、ITガバナンスや監査、調査などの分野で、日本、アメリカ、イタリア、イギリスで働いてきました。
 学部生時代には日本からアメリカ南部の私立大学に留学しています。卒業後はアメリカにおいて行政学の専門職大学院と情報管理学の大学院で修士号を取得しました。世界各国の官僚や外交官、国連職員などを教育訓練する大学院です。在学中は紛争国や途上国、独裁国を含め、さまざまな国の政府関係者や国連関係者などと親交を深めました。(「はじめに」より)

まだまだキャリアは続くのだが、いずれにしてもこうしたバックグラウンドを持つからこそ、世界のニュースを熟知しているわけである。しかも(特にその著作では)文章が平易でとても分かりやすい。だからこのシリーズも、5作目まで続くことになったのだろう。

今回も「なるほど」と思わずにはいられないトピック満載なのだが、なかでも注目すべきはAIについての記述だ。「快進撃を続けるAIですが、最近は思ったほどすごくないということがわかってきました」というのだから気になってたまらない。

データ入力が不十分な分野では悲惨なことになる


 もっとも大切なことは、AIは学習と出力に莫大なエネルギーが必要だということです。AIには利点もありますが、エネルギー効率の観点でみると生産性を上げるとはいえません。この点はコンピュータがどのように動き、どの程度の電気を使うのかというハードウェアの知識がない人は気がつかないことです。(139ページより)

例えば米マサチューセッツ大学アマースト校が2019年に発表した論文によれば、ひとつのAIモデルを実務で使えるように訓練するために、28万4000キログラムの二酸化炭素を排出することが分かったのだという。

これは、ひとつのAIモデルが実務で使えるようになるまで、膨大な量の言語を読み込ませてデータを学習する最小限の作業をした場合のこと。平均的なアメリカの車5台がスクラップになるまでに排出する二酸化炭素の量とほぼ同等なのだそうだ。

しかも、データを読み込ませて使えるようにする作業の大半は、大学の研究者が担っている。そう考えると、必要とされるマンパワーの量も推して知るべしである。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国万科の社債37億元、返済猶予期間を30日に延長

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 30日に

ビジネス

先行きの利上げペース、「数カ月に一回」の声も=日銀

ビジネス

スポット銀が最高値更新、初めて80ドル突破
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中