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焦点:トヨタ社長、3年でなぜ交代 インフレが変えた時代の潮流

2026年02月24日(火)07時26分

写真はトヨタ自動車の佐藤恒治氏(左)と近健太氏。2月6日、都内で撮影。REUTERS/Kim Kyung-Hoon

Maki Shiraki Norihiko Shirouzu

[東京 24日 ロ‌イター] - トヨタ自動車が電気自動車(EV)の戦略強化を急いで‌いた2023年。社長の若返りを図り、車づくりに精通したエンジニア出身の佐藤恒治氏(56)を抜てきした​のは時代の潮流に合った人事と受け止められた。あれから3年、財務畑が長い近健太最高財務責任者(CFO)(57)にバトンを手渡すことになった。サプライヤーや投資家から「鋭敏⁠で有能なリーダー」と評価されていた佐藤氏が、​これほど短期間で社長を退くことになった背景には何があったのか。

トヨタは4月1日付で、佐藤氏が副会長に就き、近氏が社長に昇格する新たな経営体制に移行する。佐藤体制下、トヨタは品質問題に直面しながらも販売台数や業績は順調に推移した。電動化を加速する象徴的な存在として登板した佐藤氏は、EV専用プラットフォームや電池技術への投資を進めてきた。

だが、在任期間は約14年間社長を務めた前任の豊田章男会長(69)の4分の1以下、大番頭と称された石田⁠退三氏をはじめ豊田家出身以外の社長の中では最短だ。佐藤氏自身も「正直、短い」と2月6日の社長交代に伴う自社メディアの生配信番組でこう話していた。

関係者3人によれば、ここ数カ月、豊田氏が出席する場に佐藤氏が姿を見せない場面もあ⁠り、社内では​去就を巡る憶測も広がっていた。しかし、両者の間に亀裂があったという証拠はないという。むしろ今回の社長交代は、インフレや人手不足、米国の関税政策などの影響でコスト圧力が高まる中、創業家出身の豊田会長が経営体制の再構築が必要との判断を反映している、と同関係者らは語る。

特に、ソフトウエアや自動運転、データ活用など自動車産業の主戦場となりつつある領域で優位に立てていないこと、コストの増加によってそうした分野に十分な投資ができていないことに社内で焦りがあったという。事情に詳しい関係者は、「ソフトウエア開発で競合に後れを取っているという危機感が経営陣にはある」と⁠指摘。別の関係者2人は、新たな技術の開発には巨額投資が必要だと話す。

トヨタは社長交代を発表した今月6日、‌独立社外取締役2人と社内取締役1人で構成される「役員人事案策定会議」で決定したと発表した。同日の自社番組に出演した佐藤氏は、今回の社⁠長人事に⁠豊田会長の関与はなく、自身が最終的に決めたと話していた。

ロイターはトヨタ広報に豊田氏の関与の有無を改めて確認したところ、同会議は昨年12月に今後の経営体制について自主的に議論した提案をまとめ、豊田会長に報告したと回答。「(豊田氏は)この会議のメンバーではなく、意思決定には関与していない」とした。

<近・新社長のこだわり>

新社長の近氏は、「車をしっかりつくってもらえる投資をできるためのお金、収益、数字にはこだわりがある」と自身を分析する。6日の自社番組に佐‌藤氏と出演した際、ここ1─2年は利益を出すために超えなければならない販売台数(損益分岐台数)がやや上昇していることに​言及し、「自‌動車産業全体のため、日本のために、トヨタ⁠はしっかり投資していかなければいけない」と語った。

世界的​に物価が高止まりする中、トヨタはコスト上昇に直面するサプライヤーの負担を一部肩代わりしており、26年3月期は約3600億円を見込んでいる。東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠二シニアアナリストは「この1年ほど損益分岐点を下げる必要性が(トヨタ社内で)頻繁に議論されてきた」と振り返る。近氏が指揮を執ることで、コスト削減がさらに徹底される可能性が高いとの見方を示す。

豊田会長の秘書を約8年間務めた近氏は現在、トヨタグループによる豊田自動織機の非公開化を主導するトヨタ不動産の取締役でも‌ある。ソフトウエア、自動運転技術、次世代実証都市の開発を手がける子会社ウーブン・バイ・トヨタの取締役も兼任している。

トヨタ広報はロイターの取材に対し、近氏が「どんなに環境が厳しくても、しっかり踏ん張れる体質に本当にな​っているかという課題認識がある」と自社番組で言及したことに触れ、厳し⁠い事業環境でも耐えられる強靭さを維持するには「機能軸にとらわれず、(販売後の補修部品、サービスなどを含む)バリューチェーン全体を視野に入れた改革を全社的に推進する必要がある」と説明。近氏の「ウーブンでのクロスファンクショナル(部門横断的)な経営経験が生きる」と回答した。

一方、​佐藤氏は4月から副会長と新設のチーフ・インダストリー・オフィサーに就任する。経団連副会長、日本自動車工業会会長も兼務しながら、日本の産業界全体の変革をけん引する役割を担う。佐藤氏は自社番組で「自動車業界のスピードはそんな生ぬるいものではない。かつての時間軸と今の3年は全く違う」と話した。「トヨタと産業の未来のためには、経営チームのフォーメーションチェンジが必要だ」。

(白木真紀、白水徳彦 取材協力:Daniel Leussink 編集:久保信博)

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