アングル:ドル155円の攻防へ、相次ぐ円安材料とべセントシーリングの思惑
 
        	外国為替市場で円安の動きが勢いづいてきた。日銀の金利据え置きや米欧などの利下げ観測後退、米中対立の緩和ムードなど、新たな円安材料が相次ぎ浮上してきたためだ。(2025年 ロイター/Yuriko Nakao)
Shinji Kitamura
[東京 31日 ロイター] - 外国為替市場で円安の動きが勢いづいてきた。日銀の金利据え置きや米欧などの利下げ観測後退、米中対立の緩和ムードなど、新たな円安材料が相次ぎ浮上してきたためだ。一方、先日のベセント米財務長官の発言を受け、市場では日銀が今後、円安是正を狙って利上げに踏み切る可能性があるとの見方も強まってきた。片山さつき財務相もここにきて円安への警戒を強めており、ドル155円の攻防は予断を許さない状況となっている。
<ドル/円が高市政権下の上限突破、対米欧豪加などで円安進行>
ドルは日銀会合後の30日夜、海外市場で一時154.45円まで上昇し、今年2月4日以来、8カ月ぶりの155円乗せに迫った。自民党総裁選で高市早苗首相が勝利した10月初旬以降続いた150─153円付近の取引レンジを上抜けた形だ。
レンジ上限を突破するきっかけとなったのは日銀会合だった。金利据え置きは広く予想されていたものの、一部で増えると期待されていた審議委員の利上げ票は2人にとどまり、植田和男総裁の記者会見も利上げに向けた姿勢ははっきりせず、円金利先物市場が織り込む12月の利上げ確率は、4割台まで一時低下した。
円安が急加速した背景には、日銀以外の事情もある。米、欧、オーストラリア、カナダなどの主要各国でこの1週間、「通貨安見通しが相次ぎ後退し、それらの通貨を相手に円売りを仕掛けやすくなったことも影響した」(大手銀のトレーダー)という。
米国では、連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見でパウエル連邦準備理事会(FRB)議長が「12月会合での利下げ決定は既定路線ではない」と発言し、市場の早期利下げ観測が後退。欧州中央銀行(ECB)は3会合連続の金利据え置きを決め、この1年間で政策金利を2%引き下げた利下げ局面の終了を印象付けた。
さらに豪では、第3・四半期の消費者物価指数(CPI)が2年ぶりの大幅高となったことで、金利先物市場が織り込む12月の利下げ確率が7割から3割弱へ急低下、29日に利下げしたカナダでも、中銀は声明で利下げ局面に終止符を打つ可能性を示唆した。
これらを受け、円は今週に入り対ドル以外でも下げ足を速め、対ユーロで178円台と再び最安値を更新。対豪ドルで1年ぶり、対加ドルでも10カ月ぶり安値をつけた。9月に中銀が7会合ぶりに政策金利を据え置いたスイスフランに対しても、史上最安値を更新するなど、日銀会合時点で円はすでに、全面的な売り圧力にさらされていた。
<ベセント氏発言、155円超が新たな上限か>
しかし、31日の東京市場でドルは153円半ばまで反落。一気に155円乗せをうかがう動きとはならなかった。テクニカル的な節目で戻り売りが強まりやすいことが一因だが、片山財務相が円安はかなり一方的だとし、「高い緊張感をもって見極めている」と、就任後初めて強い警戒感を示したこともドルの上昇を鈍らせた。
財務相発言に先立ち、今週来日したベセント氏の発言が「日銀の金融正常化や過度な円安是正は、今や半ば公然たる米国の要請となっている」(シティグループ証券通貨ストラテジストの高島修氏)と、市場で受け止められていることも、ドルの上値を抑制する一因となっている。
ベセント氏が片山財務相と会談した翌28日、米財務省は声明で「ベセント氏は会談で、健全な金融政策の策定とコミュニケーションがインフレ期待の安定維持と為替レートの過剰な変動を防ぐ上で、重要な役割を果たすことを強調した」ことを明らかにした。
29日午前にはべセント氏自身がxを更新。「日銀に政策余地を認めようとする日本政府の姿勢は、インフレ期待を安定させ、為替レートの過度な変動を避ける鍵になる」と投稿した。
市場では「米国はかなり強い姿勢を示した印象だ。現在のドル155円前後が今後、『ベセント・シーリング』として意識され、日銀利上げ観測の高まりが、ドルの上値攻めを難しくする可能性がある」(トレイダーズ証券市場部長の井口喜雄氏)との声も出ている。







 
 
 
 
 
     
 
     
 
     
 
     
 
     
 
     
 
     












